FAO駐日連絡事務所 Liaison Office in Japan

世界食料デー2017のテーマは「移住者の未来に変革を~食料安全保障と農村開発への投資~」

©FAO/Giuseppe Carotenuto / FAO
31/08/2017

 

*この記事は世界食料デー2017のパンフレット(英文)を和訳したものです。

 

持続可能な未来に向けて

2030 年までに「 ゼロ・ハンガー(飢餓ゼロ)」を目指す持続可能な開発のための目標は、食料安全保障と農村開発、移住問題との関係に取り組むことなしには達成できません。2015 年9 月にニューヨークの国連本部で開催された国連持続可能な開発サミットにおいて、国連加盟193 ヵ国は、貧困と飢餓を解消し、地球環境を守り、誰もが繁栄の恩恵に与れる社会を実現することを公約しました。それから1 年後の9 月には、国連本部にて移住に関するガバナンスの包括的なアプローチを検討する「難民と移民に関する国連サミット」が開催され、参加国は、「安全で秩序ある、正規移住のためのグローバルコンパクト」(Global Compact for Safe, Orderly and Regular Migration)の2018 年中の採択を目指し、交渉を始めることで合意しました。この「移住のためのグローバルコンパクト」は、人道支援、開発援助、人権保護の観点を含む、国際移住のあらゆる側面への対応を目的とするものです。

移住と食料、農業

近年、社会的・経済的発展に関する国際的な議論の場で、移住問題がクローズアップされています。もっとも、移住は太古の昔から人間の習性のひとつでもありました。それでは、今日の移住は何が異なるのでしょうか? 移動技術や通信技術の発達のおかげで、多くの人々にとって故郷や母国を離れることがさほど難しくなくなりました。しかし一部の人々にとっては、移住は依然として犠牲が大きく、肉体的にもきつく、ときとして命がけの行為となります。国連の統計によると、近年、強制移住や困窮移住を余儀なくされる人々が増えています。こうした人々は、紛争や迫害、自然災害により――あるいは、貧困や生計への脅威など極度の窮境から逃れるためにはほかに選択肢がないために――やむなく故郷を離れるのです。2015 年だけでも、世界中で6,530 万人が紛争や迫害により故郷を追われ、1,900 万人余りが自然災害により国内避難を余儀なくされました。さらに、2008 年から2015 年までの間に、年間平均2,640 万人が気候に起因する災害により移住を強いられています。

「移住」とは

「移住」とは、国内における、または国境を越えた人の移動を意味します。FAO においては「移住」は、その背景要因や期間、自発的か非自発的かどうかにかかわらず、あらゆる種類の移動を指します。

「移住者」とは

「移住者」と一口に言っても、その性格はさまざまです。移住者には移住労働者、難民、庇護申請者、国内避難民、気候変動により移動を強いられた人々、さらには、保護者を伴わない未成年者や、人身取引の被害者なども含まれます。このほかにも、教育や離散家族との再会など、さまざまな目的で移動する人々がいます。また、ある場所から別の場所に定住目的で移住する場合もあれば、一時的に移住する場合もあり、さらに、一時的な移住には、1 年のうち一時期だけ移住するといった季節的な条件による移住もあります。移住者の大半は国内移動する人々です。その一方で、国境を越えて国外に移住する人も大勢います。移住者の多くは開発途上地域の出身ですが、近年はいわゆる“グローバル・サウス”の地域内での移住や、北から南への移住も増えています。

インパクト

国連の統計によると、国際移住者はおよそ2 億4,400 万人、国内移住者は7 億6,300 万人にのぼります。2 億4,400 万人の国際移住者をひとつの国にした場合、ブラジルの人口を優に上回り、インドネシアの人口にも迫ります。強制移住は6,500 万人に及び、うち2,130 万人が難民、4,080万人が国内避難民、320 万人が庇護申請者です。移住は、人道的で秩序ある方法で管理された場合、移住先国と出身国の双方の経済成長に貢献することができます。移住者は、移住先の国や地域に新たな労働力を提供します。さらに、移住者が出身地域の資金フローに及ぼす影響力も無視できません。開発途上国出身の移住者による母国への送金額は、年間4,410 億US ドルにものぼります――これは、オーストリアのような欧州の中規模国のGDPに匹敵する額です。 

移住とFAO

移住の背景要因やインパクトは、飢餓との闘いや、食料安全保障の実現、農村の貧困削減、自然資源の持続可能な利用の促進といったFAO が掲げるグローバル目標とも密接に結びついています。FAO は、農村における強制移住や困窮移住の根本原因の解消に取り組むと同時に、人道的で秩序ある、正規の移住がもたらす恩恵を促進するにあたって、独自の役割を果たしています。2018 年、FAO は国際移住機関(IOM)と共同で、グローバル・マイグレーション・グループ(GMG)――移住問題に関する国際レベルでの対話の促進を目的とした関係機関の協議グループ――の議長を務めます。

農村における移住の現状

食料と農業は、人々の健康を支える土台である一方で、移住――特に農村部からの移動――が後を絶たない理由とも密接に関係しています。世界中の貧困層や食料不安に苦しむ人々の75% 以上が農村部に暮らし、生計を主に農業や自然資源に依存しています。多くの個人や世帯が、経済的な理由で移住します。というのも、貧困から抜け出すために移住のほかに実行可能な選択肢を持ち合わせていないからです。農村の貧困層、とりわけ小規模家族農家は、彼らが所有する自然資源や労働力の生産性を高めることのできる信用制度や、種々のサービスや技術、市場へのアクセスに大きな困難を抱えています。農業の働き口の多くは、収入が少なく不安定であったり、安全や衛生条件が劣悪であったり、賃金や機会にジェンダー格差があったり、社会保護が十分に整っていないといった不利な条件が伴います。また、農村部では、職業訓練や金融サービス、農業普及サービス、農産物の加工施設といった雇用機会に結びつく仕組みへのアクセスが乏しいため、現状好転の展望が開けないのが実状です。

持続可能な解決策

農業や農村開発は、農村における貧困や食料不安、不平等、失業、環境悪化や気候変動による自然資源の枯渇といった移住の根本原因を取り除くのに寄与することができます。持続可能な農村開発や、気候変動への適応、レジリエントな農村の生計構築への投資は、今日の移住をめぐる困難な事態へのグローバルな対応において重要な要素になります。__移住問題へのFAO の取り組みは、移住者の本国での生活条件を改善し、代替的な生計機会をつくり出すことにより、困窮移住の根本原因の打開に努める一方で、移住が移住先国と出身国の両方にもたらす開発ポテンシャルを活用することをねらいとしています。また、このほかにも、故郷を追われた人々や、彼らを受け入れるホスト・コミュニティ、危機的状況下にある人々にさまざまな支援を提供しています。

キーワード

困窮移住

個人および/または世帯が、窮境から抜け出すための実行可能な生計の選択肢を、移住のほか

に持ち合わせていない状況でなされる移住。こうした移住の背景要因には、貧困、食料不安、雇

用機会の欠如、社会保護への乏しいアクセス、自然資源の枯渇、環境悪化、気候変動などがある。

強制移住

自然的原因であれ人為的原因であれ、生命や生計が危機に瀕するといった強制的な要因があっ

て、やむなくなされる移住。難民や国内避難民、自然災害や環境災害の被災者による移住など。

自発的移住

自由意志や自主性に基づく意思決定プロセスによって動機づけられた移住。移住の理由は多種多

様だが、移住の決断を左右する最大の要因のひとつは、生活をよりよくしたいという願望である。

 

行動を起こすFAO の取り組み

移住はあくまで自由意志でなされるべきものであり、必要に迫られるものであってはなりません。FAO は、農村部の生活条件の改善や、レジリエントな生活基盤の構築に向けた支援に関する豊富な経験を蓄積しています。FAO はさまざまなパートナーと協力して、移民や難民、国内避難民が貧困削減や食料安全保障と栄養、農村世帯のレジリエンスに寄与している積極的な貢献の更なる強化へと取り組みの幅を広げていくことを目指しています。

FAO は農業や農村開発で培ってきたその専門性を、以下の領域に適用しています。

● 困窮移住の根本原因や背景要因への対応

● 若者や女性、移住のほかに選択肢のない人々のための農業・農外の雇

用機会の創出に向けた支援

● 農村部からの安全で秩序ある、正規の移住の促進、および、こうした

目的に合致した情報提供キャンペーンや政策の支援

● 移住がもつポテンシャルの農業や農村開発への活用

● 土地や自然資源をめぐる紛争の防止

● 自然災害や人的災禍による長期的な危機の影響を受けるコミュニティ

のレジリエンス強化

● 難民のホスト・コミュニティへの融合に向けた持続可能な戦略の策定

FAO はパートナーとともに以下に取り組んでいます。

● 移住の根本原因や、農業・農村開発への影響に関するエビデンス/

データを作成することで、国際・国内移住に関する理解を深める

● 農業・農村開発の観点から、難民や移民の大規模な移動に対応するた

めの制度面の能力構築を支援する

● 革新的な解決策を導入・展開するために、教訓や優良事例の普及を

図る

● 農村からの移住に対する理解を高めるための政策対話を促進する

● 移住の根本原因の打開に向けたパートナーシップやアドボカシーを強

化し、移住がもたらす積極的な貢献を促進する

 

食料安全保障と農村開発

FAO はホンジュラスで、農村の若者による企業開発を通じて、移住からの圧力を軽減するプロジェクトを実施しました。男女の若者が農業や起業に必要な技能訓練を受けた後、小規模事業を提案して資本金を募るというものです。さらに、エチオピアチュニジアでは現在、農村の若者に移住に代わる持続可能な生計の選択肢を提供するためのFAO のプロジェクトが行われています。この取り組みでは、生産的な雇用および起業機会の創出に向け、革新的なメカニズムや農村開発戦略を推進しています。

気候変動

FAO はウガンダネパールで、農村コミュニティによる気候リスクの管理や、気候変動への適応を支援しています。ウガンダでは、畜産業に従事する農村住民を対象に、気候変動による悪影響への対応能力やレジリエンスの強化に取り組んでいます。具体的なプロジェクトとして、水源管理の一元化、コミュニティの共同貯蓄計画、伝統的な知識や技術を普及する活動を進めてい

ます。ネパールでは、自然災害のリスクにさらされたコミュニティに移住に代わる選択肢を提供するため、災害への備えや気候リスク管理のための農家の能力構築に取り組んでいます。

長期化する危機や紛争

FAO はトルコで、シリア難民と彼らを受け入れるホスト・コミュニティの生計機会の向上を目的とした地域イニシアティブを立ち上げ、難民キャンプでの温室生産の普及や、職業訓練を通じた雇用促進に取り組んでいます。シリアでは、紛争により農業サービスが弱体化し、生産的資産も壊滅的な被害を受け、国の農業生産力が著しく低下しています。FAO は、農家が自分の土地にとどまり食料の生産を続けられるよう――そうすることが彼らにとって安全である限り――支援を行っています。食料安全保障を改善し、移住をあくまで自由意志によるひとつの選択の機会とするには、こうした取り組みがきわめて重要になります。

 

数字で見る移住問題

・   2015 年 の国際移住者は2億4,400万人にのぼり、

対2000年比で4割も増加しています。

・   国内移住者は国際移住者よりさらに多く、

2013 年時点で7 億6,300 万人と推計されています。

・   国際移住者のおよそ3 分の1 は15 ~34 歳であり、

女性がほぼ半数を占めています。 

・   2015 年に移住者が母国に送金した金額は6,000 億US ドルに

のぼります。このうち、途上国への送金額はおよそ4,410 億US ドルと、

政府開発援助(ODA)のほぼ3 倍にも及びます。

・   移住者の大半は農村部の出身です。世界中の貧困層や食料不安に苦しむ

人々の75% 以上が農村に暮らし、生計をもっぱら農業や自然資源に

依存しています。

・   国際移住者、国内移住者を問わず、大半の移住者は

中東、北アフリカ、中央アジア、ラテンアメリカ、東欧の出身です。

・   2015 年には、世界中で6,530 万人が、紛争や迫害により

強制的に故郷を追われました。このうち、難民は2,100 万人余り、

庇護申請者は300 万人、国内避難民は4,000 万人にのぼります。

・   難民出身国の周辺国であるトルコ、パキスタン、レバノンの

3カ国だけで、世界中の難民の4 分の1 を受け入れています。

・   2015 年に自然災害により国内避難を強いられた人々は、

1,900 万人余りにのぼります。2008 年から2015 年までの間に、

年間平均2,640 万人が、気候に起因する災害により避難民となっています。