
FAO監察総監室 内部監査官
大村 幸三さん
2013年より、FAOの内部監査を担当しています。ローマ本部ではなく国別事務所の内部統制を監査するチームに所属しており、2週間から3週間の予定で年に3、4ヵ国出張します。オフィスでの作業としては、年度の監査計画として100以上ある国別事務所のリスクを分析し、どの国別事務所を監査するか決定します。出張前には費用体系、人員構成、資産、在庫、調達先、プロジェクト進捗状況など、さまざまなデータをシステムから抽出し、不規則あるいは不整合なデータを見落とさずに検査するサンプル取引を100件前後選定します。出張先では支払伝票、請求書、納品書、発注書、入札会議事録など、書類を通じて業務プロセスをさかのぼり、支出が規程に従って行われたか否かを確認する基本的な作業のほか、政府、ドナーの現地大使館、提携するNGO、プロジェクトの受益者、他国連機関などにインタビューを行い、国別事務所のこれまでのパフォーマンスとこれから期待される役割など、多角的に聞き取りを行います。本部に戻ってからは80項目あるクライテリアごとに検出事項、その発生原因、改善案をまとめ、他の内部監査官からクオリティコントロールを受け、出張後3ヵ月ほどで監査レポートを発行します。年度末にはCapping Report(総括報告書)としてその年に監査した国別事務所に共通する内部統制上の問題点、クライテリアごとの前年対比結果などを関係
部署と共有し、本部としてどのようなアクションが求められているのかを提案します。合意された改善案については、年に2回実施状況の追跡調査を行い、その結果は財政委員会および監査委員会に報告されます。
リクルートミッションを通じてFAOで働くようになったことで、これまでの会計士としてのバックグラウンドでは知ることのなかった世界に触れることができるようになりました。例えば当初は、ブルキナファソの小さな村々を舞台に、なぜ旧宗主国でもないスイスやルクセンブルクが木の実のサプライチェーンや園芸用の苗栽培に何百万ドルも無償資金提供するのか、よくわかりませんでした。ブルキナフ
ァソは金の産地でもあることから、むしろ投資にからむ情報収集の一環として資金を出しているのではないかとすら考えました。
そんな話を日々の雑談のなかで他部署の同僚にしたところ、非木材森林産物(NTFP)が注目される理由をわかりやすく教えてくれたのです。初めて聞く言葉でした。現地の人々からすれば、森林を伐採して木材を売り、その結果得られた広大な耕地をプランテーションに転用して商品作物を生産する方が、短期に効率よく大きな収入を得られる。でもそれでは自然環境が破壊されてしまう。質のいい木材を得るには植林してから何十年もかかる。自然環境破壊を防ぎながら、かつ自然資源に依存して暮らす人々の生活を安定して支えるため、非木材森林産物である木の実を組織的に収穫し流通させる仕組みやバオバブの苗木を育てて出荷する技術協力プロジェクに、スイスやルクセンブルクは資金を出していたのでした。マリでは、野菜の種とヤギを紛争地域から逃れてきた人々に配給する緊急支援プロジェクトを監査対象に選びました。国連機関では必ず、ジェンダーに対する配慮が求められます。イスラム教徒が90%を占めるマリ。公正な基準に基づいて受益者は選ばれているのか、政府役人の親類縁者あるいは男性ばかりに配給しているのではないか、配給物資はすぐさま転売、現金化されプロジェクトの意義が失われていないかなど、担当官に質問しました。
そこでもまた、思いがけない回答を受けたのです。自分の土地を追われ何もない場所で避難生活をする人々は、キャッシュにも貯金にも興味はないしヤギのほうがずっと大事だ。たとえ受益者に
選ばれた人々が男性であっても、伝統的に野菜の栽培やヤギの世話をするのは女性であり、だからこそ穀物の種や牛を配給物資としては選ばなかった。このプロジェクトの本当の弱点は、ヤギに与
える食料の持続可能性。マリでは気候変動の影響で長いあいだ雨が降らず、牧草地が砂漠化してしまっている、とのことでした。
内部監査という業務を通じこうしたさまざまな国、人、プロジェクトに出会い、色々な学習ができる。あたりまえに見過ごしていた自然の恵み、農林水産というFAOの専門分野の重要性にあらためて気づかされる。そのような職場で働く機会をいただけたことに、感謝する日々です。
リクルートミッションを通じてFAOで働くようになったことで、これまでの会計士としてのバックグラウンドでは知ることのなかった世界に触れることができるようになりました。例えば当初は、ブルキナファソの小さな村々を舞台に、なぜ旧宗主国でもないスイスやルクセンブルクが木の実のサプライチェーンや園芸用の苗栽培に何百万ドルも無償資金提供するのか、よくわかりませんでした。ブルキナフ
ァソは金の産地でもあることから、むしろ投資にからむ情報収集の一環として資金を出しているのではないかとすら考えました。そんな話を日々の雑談のなかで他部署の同僚にしたところ、非木材森林産物(NTFP)が注目される理由をわかりやすく教えてくれたのです。初めて聞く言葉でした。現地の人々からすれば、森林を伐採して木材を売り、その結果得られた広大な耕地をプランテーションに転用して商品作物を生産する方が、短期に効率よく大きな収入を得られる。でもそれでは自然環境が破壊されてしまう。質のいい木材を得るには植林してから何十年もかかる。自然環境破壊を防ぎながら、かつ自然資源に依存して暮らす人々の生活を安定して支えるため、非木材森林産物である木の実を組織的に収穫し流通させる仕組みやバオバブの苗木を育てて出荷する技術協力プロジェクに、スイスやルクセンブルクは資金を出していたのでした。マリでは、野菜の種とヤギを紛争地域から逃れてきた人々に配給する緊急支援プロジェクトを監査対象に選びました。国連機関では必ず、ジェンダーに対する配慮が求められます。イスラム教徒が90%を占めるマリ。公正な基準に基づいて受益者は選ばれているのか、政府役人の親類縁者あるいは男性ばかりに配給しているのではないか、配給物資はすぐさま転売、現金化されプロジェクトの意義が失われていないかなど、担当官に質問しました。そこでもまた、思いがけない回答を受けたのです。自分の土地を追われ何もない場所で避難生活をする人々は、キャッシュにも貯金にも興味はないしヤギのほうがずっと大事だ。たとえ受益者に
選ばれた人々が男性であっても、伝統的に野菜の栽培やヤギの世話をするのは女性であり、だからこそ穀物の種や牛を配給物資としては選ばなかった。このプロジェクトの本当の弱点は、ヤギに与
える食料の持続可能性。マリでは気候変動の影響で長いあいだ雨が降らず、牧草地が砂漠化してしまっている、とのことでした。
内部監査という業務を通じこうしたさまざまな国、人、プロジェクトに出会い、色々な学習ができる。あたりまえに見過ごしていた自然の恵み、農林水産というFAOの専門分野の重要性にあらためて気づかされる。そのような職場で働く機会をいただけたことに、感謝する日々です。