
FAOアジア・太平洋地域事務所 プログラム担当官
金野 憲哉さん
私の現在の主な仕事は、FAO本部からアジア太平洋地域に配分される資金を通じての技術協力プロジェクト(Techni-cal Cooperation Programme, TCP)の案件形成のサポートです。本稿では、私のこれまでの仕事の一端と、日々どんなことに重きをおいて働いているかについてご紹介します。
TCPとは途上国が農林水産分野で技術を向上したい特定の課題についてFAOが中央・地方政府職員やNGO、あるいは直接生産者等へのトレーニングを行うプロジェクトの総称です。通常1つのプロジェクトは2年間で3-50万ドルの予算を使って執行されます。国の優先順位に基づいて国事務所が技術専門家と一緒に作成したプロジェクトドキュメントのドラフトがまず地域事務所に提出されます。この文書はFAOと受益国政府との正式合意文書となることから、「受益者の対象や活動の詳細、プロジェクトで雇用する専門家、政府への協力の要請内容、FAO技術専門家が提供するサービス、活動スケジュール、そのすべてが最適な形で計画され、明快に記載されている必要があります。私の主な役目は、これらの項目をチェックし、またそれがFAOのガイドラインに沿って作成されているかを確認したうえで、最終ドラフトを正式文書として地域代表に提出し、承諾を得たものについて予算を配分する手続きをとることです。私は、仕事において「現場第一」、「枠にとらわれない」の2つのことを心掛けています。現在の仕事の中では、ドラフトをもとに国事務所の同僚や技術専門家と意見を交換しながら、「現場」でやるべきことをいかにルールの中で創造的に行うかに知恵を絞ります。一方、「枠」をめぐっては、よくFAO本部と議論になります。昨年のTCPガイドライン改正時の1つの焦点は、同じ課題について複数国の間で活動を行い、経験を持ち寄ったり意見を交換する地域プロジェクトにおける合同トレーニングに1つの国から参加できる人数でした。本部の提案は「最大2人」でしたが、私はこれでは有効な支援ができない可能性があると考えました。例えば食品の流通段階におけるロスを減らすためのプロジェクトでは、生産者代表、卸売業者代表、加工業者代表の少なくとも3名が揃って同じトレーニングを受けないと、期待されたプロジェクトの成果が出ません。そこで、私は地域事務所内の技術専門家10人からこのような実例を集約して修正を求めました。

私がFAOタイ国事務所で担当した、2010年のタイ東北部洪水後の緊急支援プロジェクトは、当初は二期作のためのコメの種子と肥料を配布するだけのプランでした。しかし、州や村の職員と現場で話す中で地方レベルでの関係部局の相互理解が足りないと感じ、余った予算を有効活用して、関係部局の職員を横断的に招き、専門家による自然災害のリスク軽減のためのトレーニングを行いました。このとき、自分でプロジェクトの現場を仕切った経験は今の仕事にも生かされていると感じます。
私の仕事における姿勢の原点は前職の農水省の現場時代にあります。最初は、祖父が約半世紀前に品種改良技術者として「ササニシキ」というお米を開発したことから農業に興味を持ち、農水省の門を叩きました。3-4年目には農水省の沖縄支局に赴任し、マンゴーの輸送問題解決に取り組みました。沖縄県石垣島・八重山諸島では、台風が来るたびに飛行機の容量不足により、最高品質の完熟マンゴーに滞貨が生じ、大打撃を受けるという事態が過去10年以上も繰り返されていました。私は航空会社、海運会社、郵便局、沖縄県農林水産部、運送会社、石垣市役所、農協、果樹生産組合、泡盛生産組合、石垣空港貨物置き場等をくまなく回り、問題は相互協力の欠如にあると痛感しました。そこで事態を打開するため、新たにパートナーとしてマンゴーの観光資源としての高い価値を共有する沖縄県観光振興局に協力を依頼し、マンゴーの輸送問題についての質問も含めた観光客へのアンケート調査を行ってもらい、背景とともに「80%以上の観光客が解決を求めている」との結果を新聞記者の方に説明しました。結果、輸送問題は新聞社説などで世間の知るところとなり、時機到来とみた石垣市長が解決を県知事に要請し、テレビニュースにも大々的に取り上げられました。こうした世論の高まりにより関係者も問題を放置できなくなり、ついに対策会議が開かれ、繁忙期の貨物のプライオリティの見直し、船の有効活用等の解決策により、事態は収束に向かいました。この仕事を通じて私が感じたのは、「現場」の仕事のやりがいと、解決策は「枠」を超えて創るもの、という確信でした。
現時点では、まだ自分がすべきと思っている仕事の百分の一もできていませんが、日本の農村から途上国へ軸足を移した今も「現場第一」、「枠にとらわれない」という2つの原則を忘れず、これからも途上国の農村の人々のために微力ながら貢献していきたいと思っています。