国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

FAOバングラデシュ事務所 オペレーション・オフィサー 
坂井名穂子さん

『世界の農林水産』2016年夏号(通巻843号)より

現在私はFAOのオペレーション・オフィサーとして同機関のバングラデシュ事 務所に勤務しています。今から遡ること10 年前の 2006 年、その 頃世界的な問題となっていた鳥インフ ルエンザ対策のため、国連機関内の「動物衛生」担当の FAOには各国から大規模な資金が集まりつつあり、それらを管理し、プロジェクトを実施するために必要なオペレーション・オフィサーが絶対的に不足していました。   

 私は2003 年の FAOリクルートメント・ミ ッションに参加したことから、本部人事 部とやりとりがあり、2005 年夏に休暇で ローマを訪 れた際、 人事部を通して FAO 本部のいくつかの部署の担当官を紹介してもらい、彼らと直接話をする機会がありました。その際「将来もし人が必要な時は連絡してほしい」と伝えておいたところ、幸運にもそのうちの 1 人が私のことを推してくれ、その後、鳥インフルエンザ対策事業のオペレーション・オフ ィサー(コンサルタント)として雇われる事になり、2006 年 1 月にFAO 本部のある ローマに赴任しました。

 今でもこの時のことを思うと、FAOで働く きっかけをくれた元同僚に対する感謝の気持ちでいっぱいになります。長い人生の中には、人との出会いから、道が 開け、思いがけないチャンスが巡ってく ることがあります。国際機関で働くことにご興味がある方は、JPO や競争試験、 空席への応募以外にも、さまざまな機会があることを知っておいていただきた いと思います。

それから早 10 年、途中 FAOを離れて、違う組織で働いていた時期もありますが、すでに通算 7 年もの間 FAO で働いたこ とになります。この間、勤務先もローマ本部、バンコクのアジア太平洋地域事 務所、アフガニスタン国事務所(プロジ ェクト事務所)、バングラデシュ国事務所 と変遷しました。

 同じ組織といえども、本部、地域事務 所、国事務所ではだいぶ勝手が違いま す。アフガニスタンに移った当初は、と まどいの連続でした。本部、地域事務 所と比べ、国事務所では、国際スタッ フの数は極端に限られており、事務所運営は所長の指導の下、主に現地職 員の手によって担われています。現地 職員は国際スタッフと比べると権限が限 られており、「融通を聞かせて後に誰か から批判されるよりは、規則に忠実に仕 事を進めるのが自分の役目」という考え が無意識のうちに浸透しているようです。そのため、国際スタッフが多く手続きが 簡素化されているバンコクで 3日ででき たことが、アフガニスタンやバングラデシ ュでは1-2週間かかるような状況に頻繁に遭遇し、当初は「何故こんな時間が かかるんだろう」と首をかしげてばかりい ました。

 オペレーション・オフィサーは、担当するプロジェクトを後方から支援し、スタッフやコンサルタントの雇用、赴任の手 配、調達、予算の管理などを行うほか、 時には活動報告書の作成の手助けをし たり、本部やドナーと連携しながら新規 プロジェクトを立ち上げたりと、その仕事内容は多岐にわたります。また、プロジ ェクト全体の流れをみて、流れが滞って いる箇所を見つけては介入したり、流れ が止まらないよう関係者の注意を促すことも大事な仕事のひとつです。

現在の勤務地のバングラデシュでは、プロジェクトの数が多いうえに、恒常的 に細かいフォローアップが必要、そのう え日常生活においては、すさまじい埃と 交通渋滞との戦いで、日々翻弄されて いるような感じですが、他方、本部やバ ンコクの地域事務所にいる時にはほとん ど注意を払わなかった、調達や支払いの流れや、細かなルールを学ぶ絶好の機会となったほか、人間関係を損ねることなく、同僚たちのお尻を叩いて、仕事をしてもらうためのさまざまな技術を体得することができました( ? )。結果と して、オペレーション・オフィサーとして の経験の幅が拡がったと感じています。

 オペレーション・オフィサーはプロジェク トから上がってくる予算や書類に最初に 目を通し、クリアランスを出す権限があり(最終的な承認は所長が行う)、またプロジ ェクトに対して必要なガイダンスを与え る立場にあることから、時に「上から目 線」でプロジェクト・スタッフに接してし まうこともあります。そういう時は大 抵、 大量の仕事に追われている時、問題の あるケースがいくつも舞い込んできたと きなど、自分に余裕がない時です。「オ ペレーション・オフィサーは、プロジェク トと一緒に走り、汗をかき、苦労をともに しながら、達成感を分かち合う」、そん な心意気で、これからもプロジェクトをサ ポートしていきたいと思っています。