国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

FAO技術協力南南協力資源動員課
沢 悠希子さん

『世界の農林水産』2016年冬号(通巻845号)より


私の所属する部署は、先進国や中進国、他の国際機関などからの任意拠出 金により実施されているプロジェクト(緊 急援助事業を除く)の立ち上げや執行管 理等の調整および取りまとめを行っています。その中で、私のチームでは、ドナ ーごとに担当が割り当てられており、私は、日本、韓国、オーストラリア、ニュ ージーランドを担当しています。主な業務内容は、FAOとドナーの優先分野を踏まえた新規拠出金の協議、ドナーとの新規事業の合意、継続事業の計画 修正手続きや事業報告書の提出など です。       

ドナーリエゾンオフィサーとして、まずは FAO 内部手続きに精通していることが 求められます。例えば、新規事業の開 始において、事業計画書とともに、ドナ ーとの資金供与合意文書を締結する必要があり、この文書は、資金の送金方法や運営規則、使用用途、報告書提 出期限等のルールを定める法的な文書となります。この文書案の作成や、FAOの財務部や法務部等からの審査・承 認を得るさまざまな内部手続きは、一括 してドナーリエゾンオフィサーの業務にな ります。さらに、ドナーリエゾンオフィサーは、FAO 内部手続きのみならず、ド ナー側の手続きや優先事項を把握しながら、ドナー機関はもちろんのこと、FAO本部内事業担当部局、FAO 地域事務 所や国別事務所の担当者、在イタリア大使館 FAO 代表部等と密に連携を取 ることが求められます。

色々な国の人が集まる国際機関では当たり前の話では あるのですが、関係者それぞれの「常 識」が大きく異なる中、各関係者にそれ ぞれの意向を正確に伝えて調整し、成 果を出してもらうことに難しさを感じます。また、FAOには、明確に定められたルールが存在しないこともあり、さらに、ド ナーや事業実施地域によって手続き方 法や要求事項等が大きく異なるので、 臨機応変かつ柔軟に対応することが求 められます。私は、2015 年夏から、農林水産省よりFAOに出向させていただ いていますが、常に明文化された規定をもとに仕事を進める日本のやり方に慣れていたため、いまだに仕事の進め方 で戸惑うことが多くあります。幸いにも職場の上司や同僚に恵まれているので、色々学びながら業務に携わっています。

これまでで最も印象に残っている業務 は、今年 1-2 月にFAOアジア太平洋 地域事務所(バンコク)および FAO 本部(ローマ)でそれぞれ開催された、FA Oと日本政府の協議です。これは、農 林水産省が拠出しているプロジェクトの レビューを主な目的とする会議なのです が、バンコクでの会議では、会議の司 会進行および議事録作成を、ローマでの会議では会議の企画調整を担当しました。数十人が参加するこのような会 議の議事進行や企画調整を、1 人のオ フィサーに任せるやり方は、日本ではなかなかないことであり、責任ある仕事を任せてもらえることに非常にやりがいを感じます。

 日本と国際機関の仕事の仕方の違いは 色々ありますが、1 人 1 人の担当業務および責任範囲が明確であり、日本の仕 事の進め方との違いに初めは戸惑いました。部署内での情報共有もあまりなされない傾向にあり、個室業務であるた め周りが今どのような業務を行っているかを知る機会も少なく、ひいては組織の全体像が見えにくいことを残念に思うことがあります。そのような中、おそらくこれはイタリアならではの慣習ですが、皆よく「コーヒーに行きましょう」と誘いあい、カフェテリアで仕事の話をします。直接顔をあわせて話をすることで、お互いより理解し、情報共有できるので、FAO本部内ではコミュニケーションを図る重要な手段の 1つとなっています。こちらに来るまでは飲めなかったコーヒーも今ではとても好きになり、できるだけ多くの関係者と話をすることで、幅広く情報を得て業務に生かせるよう努めています。    

 昨年には、ベナンでプロジェクトの現場を視察させていただく機会があり、普段 オフィスでメールや書類を通してしか知 ることのないプロジェクトが、実際に現場 ではどのように実施されているかを肌で 感じることができました。まだまだ学ぶこ とが多く、四苦八苦していますが、現場 でより効率的で効果的なプロジェクト運 営が行われるよう、今後も業務に励みた いと考えています。