国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

FAOアジア・太平洋地域事務所 
プロジェクト・コーディネーター 

坂下 誠さん

『世界の農林水産』2017年春号(通巻846号)より

私は2015年1月よりFAOアジア・太平洋地域事務所(タイ・バンコク)にて、日本政府拠出のASEAN加盟国を対象にした食品安全分野のキャパシティビルティング事業のプロジェクトコーディネーターとして勤務しています。具体的には、ASEAN各国の主に農業省や保健省の行政担当者を対象として、食品安全に関する国際規格(Codex規格)の策定や実施に関する能力開発の支援を行っています。プロジェクトコーディネーターとしての業務内容は、ドナー(日本政府)から拠出された予算を用いて、裨益国であるASEAN各国のニーズを考慮しながら、ASEAN加盟国全体を対象にしたワークショップや特定の国(特にラオス、カンボジア、ミャンマーなどの後発開発途上国)を対象にしたナショナルトレーニングの企画や実施を行っています。

最近のプロジェクト活動としては、今年1月にCodex会議への参加経験のないASEAN各国政府関係者を対象に、本番さながらの模擬Codex会議のトレーニングを実施しました。トレーニング内容の実効性を出席者自身の評価で判断することは適切でないかもしれませんが、トレーニング後の出者アンケートでは出席者全員がトレーニング内容に対して高い評価を示し、やりがいを感じました。また、このようなトレーニングとは別に、ASEAN各国の食品安全に関する法制度、組織体制、国内規格の策定・実施状況について、各国間で共有できるよう調査も実施しています。

私自身は農林水産省から派遣されています。現在勤務しているFAOアジア・太平洋地域事務所には20代の頃に日本政府の立場として訪問したことがあり、その時にいつかは海外の国際機関で勤務できれば刺激的で面白そうだなと漠然と思っていました。その後、幸いにも職場で留学する機会を与えられ、さらに留学後の農林水産省内のポストが、今のプロジェクトと関係するCodexに関する業務でした。そして、このコーディネーターのポストが公募にかけられるタイミングだったこともあり、農林水産省内の人事とも相談のうえ、出願してみました。採用に当たっては書類選考とインタビューが実施されましたが、Codexに関する多少の経験もアドバンテージとなっのか、運よく採用となりました。

両方の組織に属してみて、FAOも農林水産省もどちらも手続きが多くbureau-cratic(官僚的)な組織であることは同じと認識していますが(意外かもしれませんが、個人的にはFAOの方がmore bureaucraticと思っています)、農林水産省は、グループで分担作業を行って1つの成果を出すことが多いのに対し、FAOでは基本的に何でも自分でやらなければなりません。また、FAOの業務は他律的というよりは、自分で仕事を創り、働きかけていく姿勢が求められる場面が多いと思います。
プロジェクトに関して、何らかの意思決定を行おうとすると、ドナーである日本政府の担当者、職場内の技術的見地から監督を行うリードテクニカルオフィサーや行政手続き・予算執行の責任者であるバジェットホルダー、各国に配置したプロジェクトフォーカルポイント等との間で合意形成の調整を行う必要があります。どこの組織でも同じかもしれませんが、自分の想定する100%の結果を得ることがたとえ難しく、90%、80%の結果になろうとも、目的完遂まではあきらめずに最後まで取り組む姿勢の重要性を学びました。また、意見の相違に対して前向きに調整していけるのであればまだしも、これらすべての人たちがオンタイムで対応してくれるとは限らないため、タイムロスといった本質的な部分でないところでフラストレーションがたまることもしばしばあります。現在のコミュニケーションツールとしては、メールが主流ですが、このような時は、やはり関係者と実際に面会して積極的に直接話をすることが大切だということも改めて学びました。

最後に、私は今年2月末に任期を終え、帰国する予定ですが、今回得た貴重な経験を基に、今後はドナー国側の立場でFAOと緊密で建設的な関係を構築できるよう貢献していきたいと考えています。