国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

FAO評価部 部長
五十嵐 政洋さん

『世界の農林水産』2017年秋号(通巻848号)より

私が国連機関で働き始めて、25年が過ぎました。カナダの大学で博士号をとり、国連の競争試験でキャリア職に受かった後、経済専門官、計画調整官、計画評価顧問などの職を経て、現在はFAOの評価部長をしています。

開発・人道援助の場における評価(Evaluation)とは、自分たちのやっている仕事について、「達成したい目標に対して最もすべきことをしているのか」「どのような成果が得られたのか」「効果的・効率的に計画が施行されたか」など、科学的な手法を使って検証する仕事です。1970-80年代に枠組みができた比較的新しい仕事の分野で、初期は個々のプロジェクトが計画通りに進み、その結果が意図していたものであったか、費用便益が適正であったか、などを中心に検証していました。

1990年代後半から2000年代初めにかけて、開発援助の方法が見直され、「与える・教える」援助から、「支える・促進する」援助に考え方が変わってきました。社会経済の発展とは、ある政策やプロジェクトを施行したから起こるという単純なものではなく、国民の知識・考え方・行動が変わることによって起こる、もっと複合的な現象である、ということです。これによって開発援助の手法も、援助計画をいくつかの単体プロジェクトの集まりとして考えるのではなく、大きな政策目標に向かって色々な方法を使って変化を促し、またそのための環境を整えていこう、という、いわゆる「プログラム・アプローチ」が採られるようになっていきました。

この変化に従って、評価のアプローチも変わってきました。プロジェクトが計画通りに遂行されても、それが大きな政策目標に対してどのように貢献したのか、より良い方法や他にもっとするべきことがなかったのか、ベストの方法を求めて現実の変化に柔軟に対応してきたか、など総合的に評価することが中心になってきたのです。現在、私の統括する部では、毎年、2つのグローバルな戦略目標(Strategic Objectives)に対するFAOの貢献の総合評価、5-10ヵ国でのFAOの貢献と方向性に対する戦略的評価、30前後の特定のプロジェクト評価などを行っています。過去2年間で、このうちいずれかの評価が行われた国数は79ヵ国に及びました。

国連が大事な役割を果たしている人道援助の考え方も変わってきました。今までは、緊急援助をどう行い、そして復旧・復興とどう効果的につなげていくか、という議論がなされてきました。しかし現実を見ると、紛争も災害も疫病も、同じところで何度となく繰り返されています。これらを突発的な不幸ではなく、社会や制度、政治における問題を反映した構造的な状態であると見て、取り組んでいこうということです。私たちの評価の仕事でも、この新しい考え方を基準として、評価・勧告を行うようになりました。

また、評価部の人材育成にも力を入れており、4ヵ月に一度は部の専門職員全員で勉強する場を設けています。最近では、「政治的な政策決定プロセスをプログラム理論に組み込んで評価をする方法論」、「衛星写真を使い土地利用の経年変化を分析してプロジェクトの効果を計量化する手法」など、興味深いトピックでワークショップを行いました。

プログラム強化報告を行ったFAO総会でこのように年々進化している分野の仕事ができたことは幸いだったと思います。この間、色々な人の考え方を吸収し、自分で考え、同僚と議論し、人を啓蒙し、試行錯誤しながら新しい形を追い求めてきました。国際機関は、このように自分で創造していくことができる環境だと思います。そういう可能性を求めて、国際機関に身を投じるのもいいかと思います。

国際機関では、日本の役所や企業で働くのとは違い、職場の慣行や前例といったものの縛りが少なく、またそういう仕組みに頼っていては仕事はできません。自分で主張し突破していく行動力が求められます。国連職員は飛行機の切符一枚渡されて見知らぬ途上国に行き、仕事をこなすことが良くあります。そうやってきた同志は、国籍がどこであれ同じ匂いがします。

また、国際機関で実際に働く場合は、自分の目の前の仕事をきちんと遂行することに集中するだけでなく、常に大きな戦略的な目標を意識して、そこに向かって何をすればいいのか、社会・経済・政治という常に変化している生き物の現実を注視しながら、考えて行動することが大事だと思います。私たちの評価の仕事でも、そのような柔軟で大きな視点を持たないと、本当に役に立つ良い評価・勧告ができません。それを考え議論するのも楽しいことです。そういう評価の仕事に興味を持っていただけたら幸いです。

国連開発計画(UNDP)に勤務していた当時イラクのプログラム評価に入る前のセキュリティ訓練にて。