国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

FAO林業局長 
三次啓都さん

『世界の農林水産』2018年春号(通巻850号)より

2017年6月にローマに赴任しました。着任と同時に2年に一度の総会とめぐり合わせてしまい、右も左も分からない中で質疑応答に対応しなければならず冷や汗をかきましたが、森林仲間のチームワークで乗り切り、以降、日々、新しいことに出くわしながら仕事をしています。

林業局の主な仕事は、森林分野に関わる、政策立案、政策対話、能力向上、知識の普及、基準・規範作り、統計・データ整備であり、加えて持続可能な開発目標(SDGs)の達成、またFAOの5つの戦略目標への貢献があります。5年ごとに行っている世界森林資源評価(FRA: Global Forest Resources Assessment)という事業がありますが、これは森林面積、バイオマス量といった気候変動や土地利用の基礎データを提供するものです。2020年のFRAでは、SDGsの目標15で設定されている指標についてもデータを収集する予定です。データ取得には衛星画像分析と現場調査が必要ですが、開発途上国に対しては、そのための技術協力を行いながら進めていきます。現場に密着した業務の例としては、国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)と共同で行っているウガンダの難民キャンプにおける薪炭材評価(Rapid Woodfuel Assessment)という事業があります。避難民が一時退避する場所では、食料支援だけではなく、調理用の燃料も必要になり、その多くは薪に頼っています。避難民が大挙して逃れてくると周辺の森が伐採され、地元の人とのいさかいも起こりかねません。本来難民キャンプは一時退避場所ですが、昨今、紛争が長引くにつれて滞在の長期化を余儀なくされています。難民キャンプが緑の拠点となるような支援も我々の仕事です。

FAOでは新人ですが、開発援助や途上国の森林問題については以前から関わっていました。学生時代に林学を専攻し、留年中にフィリピンのNGO活動に関わったことがきっかけで、途上国の開発問題と熱帯林に関心を持ち、国際協力機構(JICA)に入りました。マラウイ、カンボジア、フィリピンに駐在したほか、本部で森林保全や農村開発事業、青年海外協力隊事業に携わり、この間、FAOをはじめとする国際機関との連携にも従事してきました。JICAでは、開発援助を実施するうえでの現場の重要性、さまざまな関係者との意見調整や多様性の尊重、組織運営や人事管理など多くのことを学びましたが、これらはFAOで働く上での大きな財産になっています。それでも戸惑うことは多々あります。例えば、途上国だけではなく世界全体が仕事の相手だということでしょう。国連機関ですから加盟国の支持が必要ですが、加盟国は途上国から先進国に及び、その意見調整には多くの労力を割きます。また組織運営の非効率性という点もあげられます。国連改革が叫ばれて久しいですが、組織運営改革は大きな課題であると実感しています。

国連機関は決してバラ色ではありませんが、魅力的な職場には違いないでしょう。各専門機関は、その分野の国際的な政策面のリーダーシップを求められるという点で大きなやりがいがあります。さらに国際的な人的ネットワークと結びつくという醍醐味もあります。管理部門では、加盟国との意見調整、予算・人事管理に手腕を発揮できる機会があります。学生の方なら、インターンとして参加し、門を叩いてはいかがでしょうか。林業局では公募インターン以外にも、IFSA(International Forestry Student Association)という団体や個別の大学との覚書に基づくインターンを受け入れています。社会人の方であれば自身のキャリアがどの程度貢献可能なのかFAO駐日連絡事務所などに聞いてチャレンジしてみてもよいでしょう。特に管理部門については民間企業での経験が大いに役立つと思います。

 最後にもう1つ。民間企業としてFAOに関与するということです。食料も森林資源も、生産から消費に至るまで民間企業が介在しないプロセスは1つもありません。国連機関を構成する加盟国政府は大事なプレイヤーですが、それ以上に重要なのは加盟国の民間企業ともいえます。林業局では森林管理と木材生産・流通を持続させるための枠組み作りを始めていますが、そこには企業の参画が必須です。ぜひ、日本の民間企業の方々にも関心を持っていただきたいと思います。