
FAOアフリカ地域事務所
パートナーシップ・オフィサー
藤原 和幸さん
FAOアフリカ地域事務所(在ガーナ)は、サブサハラアフリカ地域におけるFAOの47加盟国(4の地域支所、3のパートナ ーシップ連絡事務所と40の国事務所を含む)を統括しています。FAO全体事業の約半分が当該地域で実施され、事務所の職員数も約130名と、全世界で5つある地域事務所の中でも最大規模です。当地域事務所は、当該地域での持続可能な開発目標(SDGs)の達成、そして、アフリカ連合(AU)が「アジェンダ2063」およびマラボ宣言(2014年)で提唱する2025年までのアフリカ飢餓撲滅達成へ向けて、AUや各地域共同体およびFAO加盟国を支援しています。私は、同事務所の戦略的パートナーシ ップ班長として、非政府組織パートナーシップの構築、醸成および資金調達を担当しています。
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今年2月、アフリカのFAO加盟54ヵ国(北アフリカ・マグレブ諸国を含む)による第30回アフリカ地域総会がスーダンで開催されました。各国農水産大臣他政府高官や市民社会代表団等が出席し、アフリカの飢餓撲滅、気候変動とレジリエンス構築、農業・農村部での若年層雇用などさまざまな課題を協議しました。その前月には、同じくスーダンで、アフリカ23ヵ国から農林漁業生産者組合と市民社会他代表らが参加する市民社会地域会合が開催されました。本会合ではアフリカ飢餓撲滅へ向けたFAOとアフリカ諸国、市民社会への提言を含む声明文が作成され、民主的に選出された代弁者らにより第30回アフリカ地域総会で発表されました。私も両会合に出席しましたが、このような、農林漁業生産者や市民社会の声が政策に反映されるような仕組みを支えることも、私の重要な仕事のひとつです。会議の準備に当たっていた昨年10月には、世界最大の人道危機と言われたダルフール紛争後初めて、米国政府が20年間継続してきた対スーダン経済制裁を解除しました。ただ、国連安全保障理事会制裁や国際刑事裁判所(ICC)の措置の影響もあり、政治的に慎重な対応が求められるなど、会議準備・運営にはいろいろな苦労がありました。時には衝突することもありましたが、多国籍・多文化のチームで会議を大成功に導けたことを嬉しく思いました。
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現在、全世界では約8億人、アフリカでは約2.4億人の食料安全保障が脅かされています※1。2030年にはアフリカの人口は17億人に増加すると推測されており※2、その食料需要を満たすため、気候変動下での食料増産が急務となっています。同時に、人口と収入の増加は農業やアグリビジネスの成長に向けた大きな機会と捉えることができます。アフリカの食料・農業市場規模は2030年には1兆USドルに達し、現在約2億人の若年層も2045年には倍増すると予測されています。AUは「アジェンダ2063」およびマラボ宣言において、モノ・サービスの域内貿易等を通じた地域統合の推進を重要課題のひとつとしており、大陸自由貿易圏(CFTA)創出により2023年までに大陸域内貿易の倍増(農産物は3倍増)を目指しています。現在12億人を擁する22億USドル超規模のアフリカ市場において、仮に全品目関税撤廃による大陸内自由貿易が実現すれば、年間160億USドルの穀物市場が創出されるという推計もあります※3。「アジェンダ2063」達成へ向けてアフリカ農業の潜在力を引き出すためには、日本をはじめとする資金パートナーを含め、さまざまな関係者との戦略的パートナーシップが肝要です。
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FAOは、日本政府がAU他国際機関と主導するアフリカ開発会議(TICAD)へ積極的に参画しており、2016年のTI CAD VI(ナイロビ開催)にはグラチアーノ・ダ・シルバFAO事務局長も出席し、この時設立された「食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA)」と「サヘル・アフリカの角 砂漠化対処による気候変動レジリエンス強化イニシアティブ」へもパ ートナー機関として参画しています。その翌年にモザンビークで開催されたTICAD閣僚会合へはアフリカ地域事務所のティジャニ代表が出席し、私も同席しました。ここではナイロビ宣言と行動計画の進捗が協議されるとともに、食料安全保障・栄養の確保や農業生産性向上の必要性が改めて確認されました。また、現在ティジャニ代表は2008年のTICAD IV(横浜開催)の際に立ち上げられた「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」の運営委員会の共同議長を務めております。日本政府にはFAOの活動を支援いただいており、外務省と農林水産省の資金拠出によりアフリカ地域でさまざまな事業が実施されています。
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最後に、FAOや国際機関を目指す若い世代の方々へ。大学院とその後のキャリアで専門性を磨き、その道のプロを目指しましょう。第二国連公用語習得には、留学、青年海外協力隊等も有効でしょう。関連セミナー、インターンシップや外務省JPO制度等の機会を存分に活用し、諸先輩方の助言・指導を仰ぎ、積極的な勇気ある一歩を踏み出しましょう。
※1 FAO世界の食料安全保障と栄養の現状、2017年
※2 国連経済社会局、2015年
※3 Saygili, Peters and Knebel、2018年