
FAO駐日連絡事務所 リエゾンオフィサー
三原 香恵さん
2017年7月にFAO本部(在イタリア・ロ ーマ)からの異動でFAO駐日連絡事務所で働く機会をいただきました。FAOでは、2011年5月に本部でジェンダーオフ ィサーとして勤務を開始してから、6年間で3つの部署を経験し、駐日連絡事務所で4つ目の部署となりました。このうち3つ目の部署であるFAO本部の事務局長室では、2015年から2017年まで約2年間、アジア・太平洋地域担当の官房付オフィサー(Attaché de Cabinet)として、グラチアノ・ダ・シルバ事務局長の補佐業務に携わりました。
事務局長室では、唯一のアジア人(そしておそらく初めての日本人)として、事務局長をサポートするという大変貴重な機会をいただきました。例えば、事務局長が他国のトップなどと行うバイ会談の際には事前に背景資料や発言要領を用意し、会談に同席し、事務局長の指示に従ってフォローアップを行いました。また事務局長がアジア各国に出張する際にはただ1人の同行者として事務局長につき、すべての行程において事務局長をサポートするという業務も行いました。このような責任ある業務が自分に務まるのか初めは不安でしたが、自分にできない業務は与えられないと信じ、業務をこなしました。グラチアノの発する言葉をすぐ隣で聞き、直接指示を受けるというような経験は、FAOの職員であっても滅多にできないことであり、初めは緊張しましたが、その機会が与えられ、事務局長に自分を信頼してもらえたことに大変感謝しています。
また、業務のひとつとして、アジア・太平洋地域のメンバー国と直接接しましたが、その業務を通じて、在イタリア日本大使館(日本政府代表部)、外務本省、農林水産省の方たちとも頻繁に接しました。その時に構築された人間関係や信頼関係を、現在の駐日連絡事務所での業務においても継続的に活用しています。日本政府との関係を一層強化したいという事務局長の想いに応えるためにも、少しでも成果を上げることができればと思っています。
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FAO駐日連絡事務所は世界に6つあるFAOの連絡事務所のひとつで、FAOの主要ドナー国である日本政府との連絡調整、その他の関係機関とのパートナーシップ構築、イベント実施や広報活動を通じた国民一般への啓発、情報発信等を主な業務としています。また、近年連絡事務所に期待されている役割のひとつが資金調達の機能です。これらの幅広い分野の中でも日本政府との連携維持、強化に特に力を入れています。FAOは2017年1月に日本政府(外務省、農林水産省)と初めての戦略会議をローマで開催し、年に1回の頻度で継続することとなっています。この1回目の会議にはローマで準備段階から関わり、今年の頭に開催された2回目の会議には駐日連絡事務所として関わりました。こうした業務の継続性を通じて、日本政府とFAOとの関係強化に貢献したいと思っています。FAOの現地プロジ ェクトに関する政府との連携や、実際に支援いただいたプロジェクトを広く効果的に広報することにも力を入れています。
日本政府をはじめとした関係機関との連絡調整の他に、予算管理者としてトラストファンドプロジェクトの実施・管理、広報業務全般の監督等の幅広い業務に従事しています。本部やフィールドオフィスの同僚たちと連携を取りながら、世界の潮流を踏まえ、組織全体としての現在の優先事項がどこにあるのかを考えながら業務をするようにしています。駐日連絡事務所のスタッフに支えられる毎日で、本部の中心業務からは離れたところにあるポジションにいつつも、日々の課題などを共有しながら前に進むことの楽しさも感じています。また、業務を通じて世界農業遺産※として登録されている日本の地域の皆さんと接することで、FAOの事業の日本の自治体へのインパクトを感じることができるのも、現在の仕事の醍醐味のひとつです。
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これまでのFAOでの7、8年間のキャリアパスを振り返ってみると、ジェンダーオフィサーとしてスタッフメンバーになったものの、その専門分野にあまりこだわらず、できることは何でもやるという精神でやってきました。その結果、全く予期しなかった部署で働く機会を得たり、まじめに仕事をしていると案外人は見てくれているものだなと思うこともありました。国連を目指す方々、すでに国連という職場に足を踏み入れた若手の方々には、自分の専門性を伸ばしつつもポジティブな思考で幅広い経験を積んでいただきたいと思います。
※世界農業遺産(Globally Important Agricultural Heritage Systems, GIAHS)はFAOのレギュラープログラムのひとつ。現在日本では11の自治体の農業システムが世界農業遺産として登録されている(2018年10月末現在、本誌p.20に関連記事)。www.fao.org/giahs/en/