FAO駐日連絡事務所 Liaison Office in Japan

FAO気候・生物多様性・土地水資源局
気候・生物多様性部緑の気候基金チーム自然資源技術専門官
青木 健太郎さん

『世界の農林水産』2019年春号(通巻854号)より

2015年からFAOローマ本部で資金調達と、その資金を用いた加盟国のための技術協力事業の立案・実施に携わっています。資金は、「地球環境ファシリティ信託基金(Global Environment Facility, GEF)」と「緑の気候基金(Green Climate Fund, GCF)」から調達しています。この2つの国際的基金は、地球規模の環境問題を解決するために多国間で資金を無償提供しており、FAOはその執行機関のひとつです。

対象となる分野は持続可能な林業、生物多様性、気候変動緩和・適応策、国際水域、残留性有機汚染物質、土地劣化(砂漠化・森林減少)といった国連条約に関連する分野です。FAOは農林水産業の観点から国連が主導する環境・気候政策の実現に貢献しています。

現在担当しているのは、ヨーロッパ・中央アジア地域のGCF気候変動ファイナンス事業(気候変動対策のための融資事業)です。FAOに移る前は国連工業開発機関(UNIDO)のプロジェクト・マネ ージャーとして、インド、スリランカ、エチオピア、ケニアなどで再生可能エネルギーによる農村開発事業を行っていました。国連で働き始める前は、国際応用システム分析研究所(IIASA)の森林分野の研究者として、アフリカ・コンゴ川流域における生物多様性と開発の問題やロシアの森林生態系管理、EUの再生可能エネルギーに関する政策提言を科学的知見に基づいて行うための国際共同研究に携わっていました。

地球規模の環境問題や気候変動に関する課題は種々の問題がどんどん複雑に絡み合ってきており、従来の単一分野だけに特化した実施策では対応しきれなくなっています。事業の立案・実施の際には分野横断的・統合的に対策を講じてゆく必要があります。しかも各分野の専門家を横断的に配置するだけでなく、事業に伴う利害調整も横断的・統合的に行わなければなりません。

日本でもそうですが、各国の行政機関は分野ごとに制度設計されているのが一般的です。そのためには、例えば気候変動政策と森林主管の官庁両方が参画する意思決定プロセスを事業アプローチに組み込まなければなりません。特にFAOによる地球温暖化緩和策や適応策の実施は関連分野が広く、利害調整は林地や農地・牧草地など景観レベルでの異なる土地利用分野だけでなく、民間・金融部門や保健・教育、ジェンダーの分野にまで広がることもあります。

こういった横断的事業を立案し実施する仕事は、専門知識に加え、事業の枠組みを作るための交渉・利害調整や合意形成を進めてゆくファシリテーションがとても大事です。事業の利害調整には専門外の組織や関係者が含まれるので、事業立案の際は関係者間のすり合わせや情報共有を丁寧に行い、相互の共通理解を高めて、Win-Winを模索するプロセスが重要になります。またFAOでは本部、地域・国事務所が事業立案・実施に関与しますが、異なる国籍や文化的背景を持ったスタッフと一緒にチームを組んで仕事を進めます。

こういったすり合わせ・相互理解プロセスは現地機関に対してだけでなく、 FAO内部でも必要になります。当然、事業実施に至るまでそれなりの時間がかかってしまいます。しかし、調整と合意形成を適切に行って説明責任を確実にしておかなければ外交問題に発展してしまいます。

ここ数年は特に中国、モンゴル、アフガニスタン、キルギスタン、アルメニアなどに関わってきましたが、日本と近いような遠いような地域であるユーラシア大陸の国々における、文化的背景や政策課題の相違点や類似点などについて考えるようになりました。特にユーラシア大陸には国の数とは比較にならないほど多くの民族が存在し、その多様性につくづく驚かされます。

出張へ行くたびに現地政府との交渉調整、ミーティング、FAO現地スタッフの人材育成に追われます。つくづく国連ほど利害調整が必要とされる組織は他にないと思います。さまざまな個性や認識・考え方を持ったスタッフと関連分野にまたがる現地パートナーが互いに理解し合い、信頼関係を築き、1つの目標に向かって進んでゆくのは簡単なことではありませんが、とてもやりがいのある仕事です。

今までの業務を通じてどれくらいの新しい人と出会ってきたでしょうか。新しい出会いを通じて多様な考え方を学ぶことはとても素敵なことです。