
FAO駐日連絡事務所 パートナーシップスペシャリスト
松岡幸子さん
2017年3月からFAO駐日連絡事務所でパートナーシップ担当として勤務しています。このオフィスは主要ドナーである日本政府との連絡調整や、民間セクターとの連携、広報活動を通じた意識啓発等を主な業務としています。特に、民間セクターとのパートナーシップはF AOが近年力を入れている取り組みのひとつです。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では17の持続可能な開発目標(SDGs)が掲げられました。その目標17が「パートナーシップで目標を達成しよう」です。
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この潮流を受け、FAO駐日連絡事務所でもさまざまなアクターとの連携を推進しています。最初に私が担当したのは2020年の東京オリンピックに合わせて行われる(当時は「予定の」)栄養サミットに向け、FAOの活動をサポートしてくださる議員を募り、FAO議員連盟の立ち上げを支援するというものでした。食料安全保障の達成には、法律や政策等の枠組みを構築することが不可欠です。 FAOは「ラテンアメリカ・カリブ海沿岸諸国飢餓対策議員前線」や欧州議会議員等との連携を進めていますが、アジアでは日本のFAO議員連盟(2017年5月設立)との連携が初の試みとなります。議員の先生方との業務は緊張が伴いますし、ローマ本部からの期待に応えられることばかりではありませんが、多くを勉強させていただいています。
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最近では、今年5月に成立した「食品ロス削減推進法」の骨子案の段階で、本部の専門家や担当部局とともにFAOとして食品ロス削減およびフードバンク支援を推進する議員連盟に対し、技術的なフィードバックやコメントをするという業務の一端を担いました。世界的な枠組み(例えば、国際条約や国際基準)を国内に落とし込んだり、他国のナレッジをある国の政策立案や現場の事業実施に活かしたりするというのは国連機関ならではの仕事だと思います。
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他に、民間企業とのコラボレーションやパートナーシップを構築するのも私の重要な業務のひとつです。SDGsの時代に入り、単に寄付をするというよりも、持続可能なビジネスを展開していくためにその事業の中でSDGsに貢献したいと考える企業が増えていると実感しています。これは本当に心強く、大変励まされます。一方で、人道・人権機関である国連機関が利潤を追求する企業と交渉し、本部や関係事務所と密に調整しながら、Win-Winの連携協定にこぎつけるというのは容易ではないと痛感しています。日本には技術やサービス、きめ細やかなフォローアップ体制等、世界の開発課題の解決に役立つ豊富な知識や経験がたくさんあると思います。それらを現場のニーズと引き合わせ、世界の人々の生活をより良くするために、微力ながら尽力できたらと思っています。
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現在のオフィスに勤務する前は、国連児童基金(UNICEF)のいくつかの現地事務所で働いていました。ラオスでは子どもの保護に携わり、大変厳しい人生を歩まれる中で、生活を良くしたいと思うこと自体が困難な人々もいることを目の当たりにしました。それを政策立案に反
映させるというのは大変なプレッシャーであると同時に、使命感のようなものを感じました。東ティモールではモニタリング・評価オフィサー(JPO)として、選挙に初参加する若者の知識や選挙行動に関するモニタリング調査全般を担当しました。赴任当初は撤退前のUNMIT(国連東ティモール統合ミッション、 PKOミッションのひとつ)と連携する業務もあったため、今思えば貴重な瞬間に立ち会えたのかもしれません。その後、バングラデシュでは包括的な社会保護事業に携わり、またも与えられた責任の重さと成果を出すことへのプレッシャーと戦いながら、改めて援助のパラダイムシフトの必要性を実感するなど、思考と感情の幅が広がりました。どのオフィスでも世界中から集まったさまざまなバックグラウンドを持つ同僚と本気でビジョンを語らい、相手国政府やNGO等と連携しながら開発課題の解決に向けて奮闘するのは楽しいものでした。同時に、国連ではチームワークと言いながらも、共通する目標を達成するために各々が独立した専門家として関係者を巻き込みながらプロアクティブに前進していく必要があると実感しました。
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最後に、国連機関を目指す若い方々へ。私が東ティモールで大先輩に言われた言葉があります。「幸せになるためには2つ。1つは好きな仕事をすること。もう1つは好きな人といること。」国連に限らず、ワークライフバランスは容易ではないかもしれません。存分に考え、ときにストイックに、でもフレキシブルに、挑戦してみてください。