世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)2024年報告:飢餓、食料不安、あらゆる形の栄養不良をなくすための資金調達
主要なメッセージ(Key Messages)仮訳
※本翻訳は参考のための仮日本語訳であるため、正確には原文(https://doi.org/10.4060/cd1254en)を参照のこと。
→世界は引き続き、持続可能な開発目標(SDGs)の目標2「飢餓をゼロに」の達成に関し大きな後れを取っている。世界の栄養不足人口は、COVID-19のパンデミックにより急増し、その後3年連続でほぼ同じ水準が続いている。2023年には、7億1300万人から7億5700万人が飢餓に直面したと推定される。これは世界の11人に1人、アフリカでは5人に1人に当たる。地域別に見ると、アフリカでは依然として飢餓が増加しており、アジアではほぼ横ばいであった。一方、ラテンアメリカ・カリブ海地域では顕著な改善が見られた。
→全ての人が十分な食料を定期的に入手できるようにするという、より広い目標に向けた進展も停滞している。中等度または重度の食料不安に直面する世界の人口は、3年連続で変化がない(ただし、ラテンアメリカ地域では進展が見られた)。2023年には、世界人口の28.9%(23億3,000万人)が、中程度または重度な食料不安に直面したと推定されている。
→栄養のある食べものへの経済的アクセスに焦点を当てると、更新・改善された手法による推定では、2022年には世界人口の3分の1超、約28億人が、健康的な食事を摂る経済的余裕がなかった。健康的な食事を摂る経済的な余裕のない人口の割合を、各国の所得グループ別に見ると、低中所得国(52.6%)、高中所得国(21.5%)、高所得国(6.3%)に比べ、低所得国(71.5%)が最も高く、格差は明らかである。
→食料安全保障の状況は改善されておらず、経済的な理由により健康的な食事を摂ることができないことに対する進捗にもばらつきがある。この状況は、2030年まであと6年となった今日、世界における「飢餓をゼロに」の目標を達成する可能性に影を落としている。予測では、10年後には5億8,200万人が慢性的な栄養不足に陥り、その半数以上はアフリカが占めるとされる。全ての人が手ごろな価格で健康的な食事が入手できるよう、農業・食料システムの変革を加速し、食料不安と栄養不良をもたらす主な要因への強靭性を高め、不平等に対処する必要がある。
→あらゆる形の栄養不良をなくすという目標に向けては、一定の進展が見られた。5歳未満の子どもの発育阻害と消耗症の割合、および生後6カ月未満の乳児の完全母乳育児率は改善された。一方、世界の低出生体重児と5歳未満児の過体重の割合は横ばいであり、15~49歳の女性の貧血の割合は増加している。7つの国際栄養目標のいずれについても、2030年までに達成できる目途は立っていない。
→発育阻害、消耗症、完全母乳育児を改善することは、子どもの成長と発達の可能性を最大限に発揮するための礎となる。一方、栄養不良の二重負荷を悪化させる肥満率は上昇しており、全ての年齢層の人々の健康と福祉にとって大きな課題となっている。あらゆる形の栄養不良に共通する要因に対処し、栄養不良と微量栄養素欠乏症、過体重と肥満の二つの側面に同時に取り組むことが必要である。
→飢餓、食料不安、栄養不良をなくすという SDGsの目標2.1と2.2を達成するためには、より多くの、そして費用対効果の高い形での資金調達が必要である。しかし、これらの目標を達成するために必要な食料安全保障と栄養に向けられる資金の総額は、今利用可能な分についても追加的に必要な分についても、明らかではない。
→食料安全保障と栄養のための資金調達に関する定義は、多岐にわたりまた多様であるため、資金調達に関する推計は一貫性を欠くとともに、資金が足りていない分野を特定できなかったり、アカウンタビリティ(管理責任)や介入効果の追跡などにおいて問題が生じている。現行の取り組みでは、このような点に十分な注意が払われておらず、あいまいなままとなっていることから、食料安全保障と栄養のための資金調達に関する共通の定義を定め、マッピングすること(何に資金フローが充てられているかを分類し可視化する作業)が早急に必要である。
→本報告書では、食料安全保障と栄養のために調達する資金について、飢餓、食料不安、あらゆる形の栄養不良をなくすために向けられる、国内外の公的および民間の資金、と定義する。この資金に含まれるのは、栄養のある安全な食料の供給、アクセス、利用、安定性、そして健康的な食事を促す習慣、さらにそれらを可能にする医療、教育、社会保護サービスを確保するための資金を指す。また、飢餓、食料不安、栄養不良を引き起こす主な原因や根底にある構造的な要因に対処することで、農業・食料システムの強靭性を強化するための資金も含まれる。
→本報告書にある通り、SDGsの目標2.1および2.2を達成するためには、新たな定義を広く共通して採用するとともに、資金の流れを可視化するマッピングに標準化されたアプローチを適用することになるが、その際、食料安全保障と栄養のもつ多様な側面を捉えることが肝要である。既存の定義では、分野毎に定めらた境界が存在するが、そこから脱却する必要がある。
→SDGs目標2.1および2.2を達成するために必要な資金については、現在利用できる額も追加的に必要な額も、未だ定量化できない。また、食料安全保障と栄養のための資金について、公的および公式な資金フローはおおむね追跡することができる一方、民間の資金フローは追跡できない。
→低中所得国 10 カ国のデータによると、食料安全保障と栄養のための公的支出のほとんどは食料の消費を対象とし、特に食料の供給とアクセスの支援に向けられている。食料不安と栄養不良の主な要因への対処については、低所得国政府の支出能力は低いようである。
→食料安全保障と栄養に対する支援は、政府開発援助(ODA)とODA以外の政府資金(OOF)の総額の4分の1にも満たない。2017年から2021年までの間、これらの資金フローは年間760億米ドルであったが、食料不安と栄養不良の主な要因の対処に向けられたのは、そのうちのわずか34%であった。これらの資金フローは、地域別ではアフリカ、所得グループ別では低中所得国において圧倒的に増加している。
→フィランソロピー、農業・食料システムに投資される出稼ぎ労働者からの国境を越えた送金、および海外直接投資による民間の資金調達は、合計すると、2017 年から 2022 年の間、年間 950 億米ドルに達する可能性がある。ブレンデッド・ファイナンス(※)は少額にとどまり、銀行による農林水産業向け純貸付はおおむね減少し続けている。
→SDGsの目標2.1および2.2の達成への進展に向け、正確にいくらの資金を調達する必要があるかどうかに関わらず、資金調達のギャップは数兆米ドルに上る可能性がある。このギャップを埋めなければ、将来的に社会的、経済的、環境的な課題が生じ、その課題解決に同じく数兆米ドルを要することになる。既存の資金をより効果的に活用することは、この資金ギャップを埋めることにつながる。
→より深刻な飢餓と栄養不良に直面する国々において、食料安全保障と栄養のための資金の調達を拡大するためには、革新的で包摂的かつ公平な解決策が必要である。しかし、多くの低中所得国は、資金フローにアクセスする上で、経済的に大きな制約に直面している。
→資金フローへのアクセスが限られていたり、ある程度の資金フローにしかアクセスできない国々では、5歳未満の子どもの栄養不良の割合が平均して高い。一方、資金フローに容易にアクセスできる国々では、小児期の過体重の割合が平均して高い。ほとんどの国は、食料不安と栄養不良を引き起こす主な要因の影響を受けており、中でも、資金フローへのアクセス能力の程度を問わず、極端な気象現象が最も影響を与える要因となっている。
→資金フローへのアクセスが限られている国々にとっては、無償資金供与(グラント)や譲許的融資を用いることが最適な選択肢である。一方、資金フローにある程度アクセスできるの国々にとっては、国内の税収を増やし、食料安全保障と栄養に資するよう税収を結びつけることが考えられる。金融リスクが高いことから、他の資金調達手段はコストが高くなりすぎる可能性があるため、ブレンデッド・ファイナンスというアプローチを通じて、資金調達に関する協調的なパートナーシップを促すことが不可欠である。資金フローに容易にアクセスできる国々は、食料安全保障と栄養の目標を、 グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンド、サステナビリティ・リンク・ボンドなどの金融商品に組み込むことが考えられる。
→食料安全保障と栄養のための資金調達に関する現在の仕組みは非常に断片的であり、縦割りのアプローチから包括的な視点を持ったアプローチに移行する必要がある。国や地域の政策の優先順位を踏まえ、何が最も重要であるかについて、関係者間の調整を強化する必要がある。そのためには、関係者間の調整を改善し、効果的に的を絞った資金調達ができるよう、透明性を高め、データ収集の調和を図ることが、極めて重要である。
→資金提供者(ドナー)やその他の国際的アクターは、リスクに対する許容度を高め、リスクを低減する活動に更に関与する必要がある。一方、政府は、公共財への投資を進め、汚職と脱税を削減し、食料安全保障と栄養のための歳出を増加し、政策支援の見直しを検討することによって、民間の商業的アクターが埋めなかった資金ギャップを埋める必要がある。
※ブレンデッド・ファイナンス
開発途上国の持続可能な開発に向けた追加的な資金を動員するために、開発金融を戦略的に利用すること。持続可能な開発に貢献するプロジェクトに商業資本を呼び込むと同時に、投資家に財務的リターンを提供する。