FAO駐日連絡事務所 Liaison Office in Japan

新型コロナウイルス感染症の危機下、世界の食料供給網の存続が極めて重要

屈冬玉 FAO事務局長
28/03/2020

【屈冬玉 国連食糧農業機関(FAO)事務局長による論稿】

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、世界中の公衆衛生システムに甚大な負担をかけており、世界の最先進経済国では何百万人もの人々が、何らかの隔離生活を余儀なくされています。

人的被害の増大と、またこの流れを変えるための大規模な取り組みには、重い経済的負担をともなうことを、私たちは知っています。

豊かな国でさえも何百万人もの人々が食料不足に陥るというような、人的被害のさらなる高まりへのリスクを低減するためには、世界はフードサプライチェーンの混乱を最小限に抑えるよう、早急に行動を起こさなければなりません。

この公衆衛生上の危機が、人々が食料を見つけられない、あるいは食料を買う余裕がないという食料危機の引き金となることを防ぐために、世界的に調整された一貫性ある対応が必要です。

現時点では、スーパーマーケットの混雑模様を映し出す報道が一部流れているにもかかわらず、COVID-19による食料安全保障へのしわよせは生じていません。

パニックに陥る必要はありません 。世界には、誰もが食べられるだけの食料が、十分に供給されているのです。一方、私たちは、課題を直視しなければなりません。それは、食料が必要とされる場所で供給不足となるかもしれないという重大なリスクです。

COVID-19の大流行(アウトブレイク)は、それに伴うあらゆる閉鎖とロックダウンにより、現代の世界経済の長いバリューチェーン全体にわたって、物流上の障害を生み出しています。

移動の制限や労働者の基本的な回避行動により、農家が農業を、そして農産物の大部分を扱っている食品加工業者が加工を行うことを、妨げる可能性があります。肥料や動物用医薬品、その他の農業資材の不足も、農業生産に影響する可能性があります。

レストランの閉鎖や食料品店での買い物頻度の低下は、生鮮食品や水産物の需要を低下させ、生産者や供給者、特に小規模農家に影響を与え、マンハッタンやマニラをはじめ、世界で増加してる都市人口に、長期的な影響を及ぼします。

食料の入手可能性に関する不確実性は、政策立案者を、国家の食料安全保障を守ることを目的とした貿易制限措置の実施へ仕向ける可能性があります。

しかし、2007年から2008 年の世界的な食料価格危機の経験を考えると、そのような措置は状況を悪化させるだけであることは明らかです。

国内での食料入手可能性を高めるために輸出国が輸出制限を課すことは、世界の食料市場に深刻な混乱を招き、価格の急騰と価格変動の増大をもたらすでしょう。

実際これらの緊急措置が、 特に低所得の食料不足国、そして貧困層や脆弱な人々のために物資を調達する人道組織の取り組みに、極めて大きなダメージを与えたことが、2007年から2008年の危機に判明しています。

私たちは皆、最近の過去から学び、同じ過ちを繰り返してはなりません。

政策立案者は、誤って食料供給を逼迫させないよう、注意しなければならないのです。

各国がそれぞれの課題を抱えていますが、政府とあらゆるセクターや利害関係者の間の協力が最も重要です。私たちは世界的な問題に直面しており、これには世界的な対応が求められます。

私たちは、食料市場が適切に機能していること、そして、食料の価格、生産、消費、在庫に関する情報を、誰もがリアルタイムで入手できるようにしなければなりません。このアプローチは不確実性を減らし、また生産者、消費者、取引業者、加工業者が情報に基づいた意思決定を行い、さらに世界の食料市場における根拠を欠いたパニック行動を抑えられるのです。

COVID-19パンデミックの拡大が一部の最貧国に及ぼす健康への影響は、いまだ明らかではありません。しかし、不適切な政策決定の結果として生じる食料危機は、私たちが回避できる人道的災害である、と確信を持って断言できます。

すでに1億1300万人の人々が、急性の飢餓に苦しんでいます。サハラ以南アフリカでは、人口の4分の1が栄養不足に陥っています。フードサプライチェーンのいかなる混乱も、人々の苦しみと、世界の飢餓削減の課題の双方を悪化させることになるでしょう。

私たちはそれを起こさないために、できる限りのことをしなければなりません。予防のコストは事後対応より低いのです。世界市場は、国や地域を超えた需給ショックをやわらげるために極めて重要です。私たちは、フードサプライチェーンの混乱を可能な限り最小限に抑えるために、協力する必要があります。

COVID-19は、連帯とは慈善ではなく、常識であることを強く思い知らしめています。

 

屈冬玉

国連食糧農業機関(FAO)事務局長 

2020年3月28日、ローマにて

 

関連リンク
FAOと新型コロナウイルス感染症(COVID-19) (日本語)

FAO and COVID-19(英語)