国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

第5回 豊かな生物多様性と伝統が息づく静岡の茶草場農法

静岡県経済産業部農業局お茶振興課 主事 松山 真綸さん

この記事はFAO駐日連絡事務所が共同編集、JAICAF国際農林業協働協会が年4回発行する『世界の農林水産』2018年秋号(通巻852号)掲載されたものです。内容は出版当時のものとなります。

はじめに

静岡県の掛川市、菊川市、島田市、牧之原市、川根本町の4市1町では、静岡県の特産品であるお茶の栽培が、「茶草場農法」という独自の伝統農法で行われています。「茶草場農法」とは、茶畑や集落の周りにモザイク状に点在する「茶草場」と呼ばれるススキやササなどが自生する草地から、秋から冬にかけて草を刈り取り、乾燥させて、冬の間に茶畑の畝の間に敷く農法です。この「茶草場農法」は、傾斜地茶園の土壌条件を良好に保つだけでなく、土壌の流出を防ぎ、お茶の品質においても良い影響を及ぼすとされています。

茶農家が利用し、維持してきた里山の草地には、他の地域では見ることができない「カケガワフキバッタ」などの固有種を含む300種類以上の多様な動植物が確認されています。「茶草場農法」は、高品質な茶生産と生物多様性の保全がバランスよく両立された価値の高い農業文化として評価され、2013年5月に世界農業遺産に認定されました。

「茶草場」の保全および「茶草場農法」の継続を推進し、多様な生態系の維持および地域産業や観光等の振興を図るため、認定地域の4市1町で構成される世界農業遺産「静岡の茶草場農法」推進協議会(以下、協議会とする)は2012年に発足し、掛川市を事務局としてその活動を開始してきました。その後、市町の行政域を超えたより広域的な連携をするために、2016年4月に事務局が静岡県に移管されました。

世界農業遺産に認定されてから今年で5年目を迎える「静岡の茶草場農法」に関し、協議会が行ってきた取組みや今後の活動等について紹介します。

これまでの取組み

● ブランド化の推進

協議会では、世界農業遺産認定後間もない2013年9月に、「茶草場農法」に取り組む生産者を茶草場農法実践者として認定する制度を創設しました。現在では、「茶草場農法」を実践する農家数は制度開始年度の約6倍、茶草場面積は約3倍に増加し、「茶草場農法」を次世代に継承する土台が広がっています。

また、2013年10月から、「茶草場農法」で作られた茶葉を使用したお茶であることを示す認定シールの販売を始めました。認定シールを貼った商品の販売では、非正規品の出現を防ぐため、販売業者の登録制をとっており、2018年8月末で業者数は133業者、認定シールの販売枚数はのべ318万枚以上にまでなりました。販売業者は静岡県内だけでなく東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府、京都府、兵庫県など全国の大都市圏の消費地にも広がっています。

加えて、他の世界農業遺産認定地域と連携して首都圏でのイベントに出展し、「茶草場農法」および世界農業遺産の周知に努めているほか、2015年にイタリアで開催されたミラノ国際博覧会や2016年に静岡県で開催された世界お茶まつり2016などの国際イベントでも情報発信を行いました。

● 応援制度基本計画の策定

「茶草場農法」を持続可能な生産活動とするためには幅広い認知と支持を集めていく必要があることから、2017年3月、企業や県民の支援を受ける応援制度について、基本計画を策定し運用を始めました。この基本計画には、「茶草場農法」を応援する支援制度の創設、企業と農村の交流促進、農作業ボランティアの活用、市民の意識の醸成、グリーンツーリズムの推進、情報発信の強化を主な取組み項目として位置付けています。

また、「茶草場農法」を応援する個人や企業に活用してもらい、露出度を高めることで「茶草場農法」の認知度向上を図ることを目的に、2017年5月に「茶草場農法」応援ロゴマークを作成しました。この応援ロゴマークは茶製品のみならず、幅広く使用することができ、2017年度は8件の使用承認を行いました。

● 地域の魅力発信

茶の遅霜による被害を防ぐために茶畑に設置されている防霜ファンは、現在の栽培には欠かせないものですが、無機質な支柱は景観の魅力を損なわせていました。そのため、その色調を景観に配慮したものとするため、景観デザインの専門家の指導を受けて、展望台から見える約80本の支柱を茶色に塗装しました。また併せてガードレールも茶色の物へと交換しました。

このように、より魅力的になった地域を紹介するために、2017年には公式ホームページおよびFacebookページを立ち上げ、世界農業遺産「静岡の茶草場農法」について日々情報発信を行っています。

● 試験研究の推進

これまでに、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構や静岡大学、東京農業大学、静岡県農林技術研究所茶業研究センターが「茶草場農法」を対象に研究を実施しています。茶草の施用によって茶園の土壌の保水性が改善する効果の実証や、周辺地域の気象環境の情報整理や分析が進むなど有益な成果が得られており、茶の生産技術の改善や価値の明確化が期待されます。

また、世界農業遺産認定地域での生物多様性調査を継続的に行い、貴重な動植物の保全に着実に役立てていきます。

地域の課題と今後の活動

「茶草場農法」の継続・継承のためには、茶草場の管理者である茶農家の意欲の向上や担い手の育成が重要です。そのためにも、商品であるお茶の持つ価値が広く伝わるように販売促進するとともに、企業や消費者との連携を強めていくことが必要であると考えています。

このため、大都市圏でのPR事業をはじめ、応援制度基本計画に位置付けた支援制度やロゴマークの活用、企業と農村の交流促進、グリーンツーリズムによる誘客促進、ホームページやSNSを通じた情報発信力の強化を協議会として一体的に推進することで「茶草場農法」の認知度を高めるとともに、支援の輪を広げ、「茶草場農法」により作られたお茶のブランド化を図っていきます。

また、2018年3月に新たに世界農業遺産として「静岡水わさびの伝統栽培」が認定されました。現在、国内で11地域が世界農業遺産の認定を受けていますが、同じ県に世界農業遺産の認定地域を2つ持つのは唯一静岡県だけです。今後2つの世界農業遺産を連携させ、より一層「茶草場農法」の魅力発信や観光客誘致を通じた地域活性化に取り組んでまいります。

世界農業遺産の認定を受けて

静岡県掛川周辺地域の4市1町で伝統的に行われてきた「茶草場農法」が世界農業遺産に認定されたことは、地域でお茶産業に携わる方や「茶草場」の豊かな自然の研究・保全活動を行ってきた地域住民の方にとって、その魅力と価値を再発見する機会になるとともに、携わってきた産業や活動に自信と誇りを改めてもたらしてくれました。

時代とともに、昔ながらの里山の風景に触れる機会が減り、家庭でも急須でお茶を淹れることが少なくなってきていますが、「茶草場農法」のお茶の持つ価値が、国内外に広く認知され、多くの方々の支援を受けることを通じて、「茶草場」がもたらす豊かな自然と生物多様性を次世代に残していけるよう、支援に取り組んでまいります。

 

関連ウェブサイト
世界農業遺産「静岡の茶草場農法」推進協議会

FAO - GIAHS: Traditional Tea-grass Integrated System in Shizuoka