国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

第6回 清流長良川の鮎

©岐阜県
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岐阜県農政部里川振興課 藤井 亮吏 さん

この記事はFAO駐日連絡事務所が共同編集、JAICAF国際農林業協働協会が年4回発行する『世界の農林水産』2018年冬号(通巻853号)掲載されたものです。内容は出版当時のものとなります。

清流長良川

長良川は、標高1,709mの大日ヶ岳に源を発し、岐阜県美濃地方の中央を流れ、伊勢湾へと注ぐ166kmの川です。この川で特筆すべきは、豊かな水量と良好な水質を誇り、都市部を流れ、流域に86万人の人口を抱えながらも清流を保ち続けていることです。

世界農業遺産「清流長良川の鮎」の認定地域である長良川上中流域は、岐阜市、関市、美濃市、郡上市の4市からなる地域です。この地域は、鮎を中心とした内水面漁業が盛んであり、人々は鮎などの川の恩恵を享受する一方で、水質保全活動などを通して清らかな流れを保つ努力を続けてきました。このような長良川における人の生活・水環境・漁業資源が相互に連関する、世界に誇る「里川」のシステムである「長良川システム」が、2015年12月、世界農業遺産に認定されました。

世界農業遺産認定後の取組み

世界農業遺産「清流長良川の鮎」は、「鮎」が世界農業遺産であるとみられることもしばしばですが、前述のとおり、「長良川システム」が認定されたものです。このため、水産業のほかにも、農業、林業、伝統文化、河川管理および環境保全など幅広い分野の人々が関わり、その保全、継承および活用の取組みが行われています。

これらの取組みは、岐阜県、認定地域4市、長良川漁業対策協議会、岐阜県農業協同組合中央会、岐阜県森林組合連合会、(一社)岐阜県観光連盟、岐阜県商工会議所連合会で組織された、世界農業遺産「清流長良川の鮎」推進協議会を中心に行われています。

「里川」における持続的な農林水産業の振興

長良川のシンボルである鮎と鮎漁を支える取組みとして、漁業協同組合による稚鮎の放流が行われています。長良川では、河川で採捕された鮎を親魚に用いるとともに、親魚[しんぎょ]の数を多く用い、遺伝的多様性を確保しながら鮎資源と漁獲量の増加を図っています。この放流用鮎種苗の生産を担う(一財)岐阜県魚苗センターは全国最大規模の放流種苗出荷量を誇り、2018年3月には、親魚養成施設の新設や種苗生産施設の増設を行いました。

また、鮎漁を支える取組みとして、後継者の育成をはじめとする担い手の確保も重要です。そこで、7月第4日曜日を「GIAHS鮎の日」と定め、子どもたちを中心に、清流長良川や鮎に親しみを持ってもらえるようなイベントを県内各地で開催しています。

さらに、一般公募により制定されたロゴマークをPRグッズに活用し、世界農業遺産「清流長良川の鮎」の認知度向上に取り組むとともに、「清流長良川の恵みの逸品」認定制度を創設し、流域の特産品の販売促進や「長良川ブランド」の確立に向けた積極的な取組みを進め、地域の農林水産・商工観光業の振興を図っています。

「里川」の水環境と生物多様性の維持・保全

鮎などの水産物を育み、豊かな農産物や工芸品を支える長良川の水を保全するため、水源の森づくりにも取り組んでいます。例えば、流域の漁業者、林業者、地域住民などによる植林事業「長良川源流の森育成事業」や、魚類の生息、繁殖を助けるために伐採等を制限する「魚つき保安林」の指定地域の拡大などが行われています。また、行政による河川の水質監視や企業および地域住民による河川清掃活動なども流域各所で行われ、中流域と上流域が連携し、多様な主体が関わりながら森づくりや環境保全活動が行われています。

さらに、行政や地域住民等の協働による希少魚類の保全やフィッシュウェイ・サポーターによる魚道の点検などの活動により、鮎にとって重要な森・川・海のつながりを守り、多様な生物が生息する環境を保ち続けています。

鮎の伝統漁法と伝統文化の継承

世界農業遺産は“生きた遺産”とも言われ、変化・進化しながら次世代につなげていく遺産です。このような世界農業遺産に認定されたシステムを守り、実践する後継者の育成が重要です。世界農業遺産「清流長良川の鮎」の長良川システムを保全・継承・活用するために、鮎の友釣りを親子で学ぶ講座、手漉き和紙技術の講座など、鮎の伝統漁法や鮎と水にまつわる伝統文化の継承を見据えた体験講座を実施してきました。

2018年6月には、内水面漁業の振興と世界農業遺産「清流長良川の鮎」の情報発信の拠点となる「清流長良川あゆパーク」がオープンし、川や魚に親しむ体験学習などによって、次世代を担う子どもたちに「長良川システム」を体感してもらうなど、人材育成に努めています。

「里川」の景観と伝統的防災システムの保全・継承

長良川上流の郡上市では、川の周りに農地と住宅が連綿と連なる農村風景が続くとともに、川面には鮎釣りや川遊びを楽しむ人が見られ、「カワド」、「水舟[みずぶね]」といった伝統的水利用施設が水とともに生きる町並みを作り出しています。中流の美濃市では、「うだつの上がる町並み」と呼ばれる商家の立ち並ぶ地区が重要伝統的建造物群として保存され、岐阜市にも、「長良川中流域における岐阜の文化的景観」として、長良川にまつわる生活・生業に根ざした景観が残されています。さらに、長良川には遊水区域を活用し中下流の水害を防ぐ霞堤[かすみてい]と呼ばれる伝統的防災システムがあり、このような河川管理の姿もまた、昔から続く流域の風景となっています。

このように、人々が川の恵みを受け、川と親しみ、川に寄り添う風景が、世界農業遺産「清流長良川の鮎」の特徴的な景観となっています。

国内外に向けた長良川システムの発信

世界農業遺産の認定以来、その認知度向上のために多様なプロモーションを行ってきました。そのひとつが「世界農業遺産体感モデルツアー」です。これは、認定地域を巡り、流域の伝統文化や「清流長良川の鮎」を体感いただき、県民に限らず、近隣の都市部の人々にも「長良川システム」をPRするものです。

また、岐阜県には世界農業遺産「清流長良川の鮎」のほかに、ユネスコの世界文化遺産「白川郷合掌造り集落」や世界無形文化遺産「本美濃紙」など、世界に誇る遺産が多くあり、これらを有する9市町村と「岐阜県『世界に誇る遺産』連合」を設立し、国内外に向けた魅力発信等一体的に取り組むこととしています。

一方、開発途上国の内水面漁業支援など国際貢献にも力を入れています。世界農業遺産の認定を機に水産研究所内に「岐阜県内水面漁業研修センター」を設置し、アジアやアフリカ地域を中心に多くの研修生を受け入れるとともに、専門研究員を派遣することにより、内水面漁業に関する専門的、技術的な支援を提供し、世界農業遺産や「長良川システム」に関するさまざまな経験を共有する活動に取り組んでいます。

次のステップ

2018年4月、FAO本部で開催されたGIAHS国際フォーラムに、地方自治体の長として唯一岐阜県知事が招かれ、世界農業遺産「清流長良川の鮎」の認定後の取組みを紹介する機会を得ました。その際に、世界農業遺産に臨む岐阜県の理念を4つのキーワード「Clear Waters(清流)、Communication(情報共有)、Collabo-ration(協働)、Contribution(貢献)」で表現しました。ここまで述べてきた認定後の取組みの内容は、「世界農業遺産の価値や意義の共有(Communication)「」国内外の認定地域やほかの世界遺産等との連携(Collaboration)」「国内外の内水面漁業や世界農業遺産の発展への貢献(Contribution)」の視点で見ることができます。次なるステップに向かってもまた、これら3つのCのキーワードの下、流域の関係者が一丸となって活動を推進していきたいと考えています。

 

関連ウェブサイト
岐阜県: 世界農業遺産「清流長良川の鮎」の概要

推進協議会:世界農業遺産清流長良川の鮎

FAO - GIAHS: Ayu of the Nagara River System