世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)2025年報告
「世界の食料安全保障と栄養の現状」は、国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、国連児童基金(ユニセフ)、国連世界食糧計画(WFP)、世界保健機関(WHO)が共同で作成する年次報告書です。
1999年以降、飢餓の撲滅、食料安全保障の達成、栄養改善に向けた世界の進捗状況をモニタリング・分析しています。また、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の達成に向けた主要な課題について、詳細な分析も行っています。
世界の栄養不足人口と栄養不足蔓延率(Prevalence of Undernourishment, PoU)

注:2020年以降は、推定範囲の上限値と下限値をバーで表示。
* 点線はナウキャストに基づく2024年の予測値。
出典: FAO. 2025. FAOSTAT: Suite of Food Security Indicators. [2025年7月28日引用]. https://www.fao.org/faostat/en/#data/FS. Licence: CC-BY-4.0.
世界の栄養不足人口と蔓延率(PoU)(2024年推定値)
栄養不足人口:6億3,800万 ~ 7億2,000万人
栄養不足蔓延率(PoU):7.8 ~ 8.8%
- 最新のグローバルな推計によると、近年、世界の飢餓人口には減少傾向の兆しが見られる。2024年には、世界人口の約8.2%が飢餓に直面したと推定されており、2023年の8.5%、2022年の8.7%から減少している。
- この減少は、東南アジア、南アジア、南アメリカでの顕著な改善によるものである一方で、アフリカの多くの地域や西アジアでは、飢餓が引き続き増加している。2024年には、アフリカの人口の20.2%が飢餓の影響を受けているが、アジアでは6.7%、ラテンアメリカおよびカリブ地域では5.1%となっている。
- 2024年に飢餓に直面した人の数は、6億3,800万人から7億2,000万人と推定されており、これは世界人口の7.8%から8.8%に相当する。点推定値(2024年は6億7,300万人)を基にすると、2023年と比べて1,500万人、2022年と比べて2,200万人の減少を意味する。
- 2025年から2030年にかけて、世界の栄養不足人口はさらに減少すると予測されているが、それでも2030年には約5億1,200万人が飢餓に直面すると見込まれており、そのうち約60%がアフリカに集中すると予想されている。
食料不安に直面する世界の人口(2024年推定値)
重度・中程度の食料不安に直面する世界の人口:23億人
重度の食料不安に直面する世界の人口の割合:28.0%
※SDG指標2.1.2―食料不安の経験尺度(Food Insecurity Experience Scale, FIES)に基づく、中程度または重度の食料不安に直面する人の割合(蔓延度)―は、すべての人が十分な食料を得る権利を実現するという、より野心的な目標に向けた進捗状況を測るものである。
- 中程度または重度な食料不安に直面した人の世界的な割合は、2021年以降徐々に減少している。2024年には、世界人口のおよそ28.0%、約23億人が中程度または重度な食料不安に直面し、十分な食料への安定的なアクセスがない状況にあったと推定されている。
- 地域ごとの傾向には大きな違いがみられる。アフリカでは食料不安が悪化している一方、ラテンアメリカおよびカリブ地域では改善が見られ、アジアでもここ数年徐々ではあるが改善が続いている。オセアニアおよび北米・ヨーロッパでは、数年間の増加を経て、2023年から2024年にかけてわずかな減少が見られた。
- 世界全体および多くの地域で、農村部に住む人々の方が都市部の人々よりも中程度または重度な食料不安に直面している割合が高くなっている。2022年から2024年にかけて、世界全体およびアジアでは都市部でのみ食料不安の改善が見られたが、ラテンアメリカおよびカリブ地域では、農村部・都市周辺部・都市部のすべての地域で改善が見られた。一方、アフリカでは農村部・都市部ともに食料不安が悪化した。
- 男女間の格差は、2021年から2023年にかけて世界全体で縮小してきたが、2024年にはやや拡大した。依然として、世界全体およびすべての地域において、女性の方が男性よりも一貫して高い割合で食料不安に直面している。
経済的な理由で健康的な食事を摂ることができない人口(2024年推定値)
経済的な理由で健康的な食事を摂ることができない世界の人口:約26億人
- 2023年から2024年にかけて食料価格は上昇し、世界全体における健康的な食事の平均コストは、一人一日あたり購買力平価(PPP)で4.46ドルとなった。これは、2023年の4.30ドル、2022年の4.01ドルに比べ、上昇している。
- 2024年の食料価格の上昇にもかかわらず、健康的な食事を経済的な理由で手に入れることができない人の数は、2019年の27億6,000万人から2024年には26億人へと減少した。この改善は、パンデミックからの経済回復によるものであるが、地域や国の所得水準によってその回復の度合いにはばらつきが見られる。
- 近年、健康的な食事を経済的な理由で手に入れることができない人の割合および人数は、アジアにおいて大きく減少し、ラテンアメリカおよびカリブ地域、北アメリカおよびヨーロッパ、オセアニアでもわずかではあるが減少している。一方、アフリカではその割合が2019年の64.1%から2024年には66.6%へと上昇し、人数に換算すると8億6,400万人から10億人へと増加したとみられる。
- 低所得国においては、2017年以降、健康的な食事を経済的な理由で手に入れることができない人の数が着実に増加しているのに対し、高中所得国 および高所得国では、2020年以降減少傾向にある。
主要用語の定義
食料安全保障:すべての人が、いかなる時にも、活動的で健康的な生活を送るために、必要とする食事や食の嗜好を満たす、十分で安全かつ栄養のある食料を、物理的、社会的、経済的に入手できる状況。この定義に基づき、食料安全保障に関する4つの側面が挙げられる:
・Availability(食料が物理的にあるか)
・Access(食料へ経済的・物理的にアクセスできるか)
・Utilization(食料を有効に活用できているか)
・Stability(安定的に食料が保障されているか)
食事の質(または健康的な食事): 多様性(食品群内および食品群間)、適切性(必須栄養素の必要量に対する充足度)、適度な摂取(健康状態の悪化に関係する食品および栄養素)、バランス(エネルギーとマクロ栄養素の摂取量)の4つの主要な側面からなる。また、摂取される食品は安全でなければならない。
飢餓:食事からのエネルギー摂取量が不足していることによって引き起こされる不快感または苦痛。本報告書では、飢餓という用語は慢性的な栄養不足と同義であり、栄養不足蔓延率(PoU)によって測定される。
栄養不良:マクロ(主要)栄養素および/またはミクロ(微量)栄養素の不適切、不均衡、または過剰な摂取、および/または体重減少の原因となる疾患によって引き起こされる異常な生理状態。栄養不良には、栄養不足(幼児の発育阻害や消耗症、ビタミンやミネラルの不足(微量栄養素欠乏症とも呼ばれる))だけでなく、過体重や肥満も含まれる。
中程度の食料不安:人々が食料を入手できるかどうかについて不確実性を抱え、金銭的またはその他の資源不足により、年間のある時期には摂取する食料の質や量を減らさざるを得ないことがある食料不安のレベル。中程度の食料不安とは、食料への一貫したアクセス不足を指し、食生活の質を低下させ、通常の食習慣を乱し。栄養や健康、生活の質に悪影響を及ぼす状況を指す。食料不安の経験尺度(Food Insecurity Experience Scale, FIES)で測定される。
重度の食料不安:人々が食料を使い果たし、飢餓を経験し、最も極端な場合には数日間食料を摂取できない状態で過ごしたことがあり、健康や生活の質が深刻な危機にさらされるレベル。食料不安の経験尺度(FIES)で測定される。
栄養不足:正常で活動的かつ健康的な生活を維持するために必要な食事エネルギー量を、個人の習慣的な食料摂取量では十分に賄えない状態。本報告書において、飢餓は慢性的な栄養不足と同義と定義される。飢餓の測定指標には、栄養不足蔓延率(PoU)が用いられる。
