国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

世界農業遺産:新たに日本とイラクの3地域を農業遺産に認定ーレジリエンスの構築、地域の生物多様性の活用、食料安全保障への取り組みの重要性を強調

武蔵野の地域コミュニティでは、森の落ち葉を堆肥として畑に鋤き込む農法を継承

©Musashino Region

2023/07/06

ローマ発:アジアで新たに3つの地域が世界農業遺産(GIAHS)として正式に認定され、増え続ける世界の人口に食料を供給し、気候変動や生物多様性の損失の問題に取り組む上で、アジア大陸の何世紀にもわたる農法の重要性が強調されました。

今週(7月4日〜7日)スペインのバレンシアで開催されたGIAHS科学助言グループの会議において、イランの天水を利用した独特なイチジク栽培地域、東京近郊の落ち葉を堆肥として利用する地域、西日本のユニークな遺伝資源の保存方法で肉牛の繁殖手法を用いてきた地域が、新たに世界農業遺産として認定されました。

世界農業遺産(GIAHS)は、国際連合食糧農業機関(FAO)の主要プログラムであり、その選定基準として、対象となる地域が世界的に重要であるとともに、食料と生計の保障、農業生物多様性、持続可能な知識体系と実践、社会的価値と文化、そして優れた景観を支える公共財としての価値を持つ場所でなければならない、と規定しています。また、世界農業遺産として認定することで、生物多様性と伝統の宝庫であるこれらの地域を持続可能な形で管理し続けるよう、コミュニティに働きかけています。

これら地域が新たな認定されたことにより、FAOの世界農業遺産は世界24カ国77システムとなります 。※ 世界農業遺産プログラムでは、先日、ここ数年の間に新たに認定された地域に認定証を授与する大規模なイベントを開催し、世界各地のGIAHSシステムの多様性を称えました。

イランのユニークな天水イチジク栽培地

 イラン南西部ファールス州に位置するエスタフバーンの天水イチジク果樹園システムは、イチジクの天水生産において世界で最も重要な地域のひとつです。このイランの山岳地帯に住むコミュニティは、少なくとも250年以上にわたって、貴重な古来種のイチジクで、独自のイチジク栽培を続けてきました。彼らは、石と粘土でできた独特な古くから伝わる手法を使って、水を木の根に注ぎ込み、気温の厳しいこの地域の浸食と砂漠化防止に大きく貢献しています。

また、天水によるイチジク栽培は、この地域で重要な経済的・社会的役割を担っており、何千もの家族がイチジク栽培により直接的・間接的に生計を賄い、家畜や野生動物の餌にも利用されています。同郡の主要都市に住む人々は、毎年定期的にイチジク園に1カ月以上滞在し、果実の収穫を手伝っています。

東京郊外の伝統的なシステム

東京近郊に位置する「大都市近郊に今も息づく武蔵野の落ち葉堆肥農法」は、伝統的な農業・林業・漁業が融合したものです。土壌の養分が少なく水が乏しい環境の中で、地域コミュニティの人々は森林の落ち葉を堆肥として畑に鋤き込み、サツマイモ、ほうれん草、里芋等農産物 を栽培するための生産性の高い状況を作り出しました。

このシステムがさらに注目に値するのは、世界有数の巨大都市の近郊にありながら、生態系機能を最大限に活用した持続可能な農業が営まれている点です。このシステムの歴史は1600年代にまでさかのぼります。当時、人口が急増していた江戸(現在の東京)に食料を供給するため、この台地で開墾が始まりました。現在まで、農村では落ち葉を利用した伝統的な施肥方法にこだわり続けています。農家の人々は、この農法がなければここで農業を営むことは不可能だと言います。

西日本における米と牛の共生 

兵庫県西部の山間部、森林の多い美方郡には、「人と牛が共生する美方地域の伝統的但馬牛飼育システム」があります。この地域では米が主要作物で、多くの水田は山腹の棚田にあります。周りには柔らかい草が生い茂り、稲藁とともに、但馬牛2,000頭にとっての理想的な飼料となっています。 

但馬牛は、市場では神戸ビーフとして知られている和牛の一種で、希少なイヌワシを含む多くの希少動植物種の生息地でもある稲作農法が生み出す環境下で育まれています。この地域に住む農家の人々は、牛の遺伝資源を保存・改良するための卓越した手法を何世代にもわたって受け継いでおり、これからも先祖代々受け継がれてきた持続可能な農業の道を歩み続けます。

 

関連リンク

英文のプレスリリースはこちらから。 

※7月10日に韓国のサイト認定が発表され、世界の農業遺産サイトは、24カ国78か所となります。プレスリリースはこちらから。

 世界農業遺産ホームページ