国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

アフガニスタンにおけるFAOと日本の協力:地域社会の主導による灌漑を通じた農業生産の向上を支援

©FAO/Lydia Limbe

2023/08/30

横浜: 8月30日、国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所の日比絵里子所長と国際協力機構(JICA)アフガニスタン事務所の天田聖所長は、アフガニスタンに対する日本政府による約950万米ドル(13.28億円)の無償資金協力「地域社会の主導による灌漑を通じた農業生産向上計画」に関する贈与契約に署名した。本事業は、国際協力機構(JICA)の協力を得つつ、今後4年間実施する予定。アフガニスタン東部のクナール州では、12,600人以上の男性や女性、子ども達が、貧困や食料不安におかれる中、灌漑農地の拡張、地元の食料生産の増大、及び食料安全保障の強化とより強靭に生計が立てられるよう支援を行う。また、本事業は、特に気候変動の影響が増大する中で、脆弱な放牧地の保護や貴重な地下水資源の涵養等を通じ、地域社会に直接環境面での便益をもたらすことが期待される。

日比絵里子FAO駐日連絡事務所長は、日本政府及びJICAの支援や、FAOとの長年にわたる協力関係に謝意を表しつつ、「本日の署名式は、アフガニスタンにおいて、水資源、農業、食料、人々の健康と生存について包括的に考えられた中村先生のご遺志を引き継ぐ活動の新たな節目です」と述べた。

水は農業の要である。人口増加や気候変動の影響が拡大する中で、アフガニスタン全土で水へのアクセスがますます重要になっている。同国では、食料生産の70%以上を灌漑に依存している。本事業では、クナール州にあるヌルガル灌漑用水路を改修し、農業生産のための灌漑水量の確保や送水をより確実なものとし、本用水路によって灌漑される農地面積を70ヘクタール増やし、計643ヘクタールに拡大する。これにより、農業の総生産量が増加し、農業生産性を少なくとも12%上げることが期待される。また特筆すべき点として、本事業により、食料不安に直面している農村世帯にとって、これまで年に1度しか収穫できなかった小麦の二期作が可能となり、農家の所得や強靭性、食料安全保障が向上する。さらに、改良され現地に適した品種により、2,000ヘクタール以上の脆弱な放牧地を保護し、重要な地下水資源を涵養する等、地域社会にも便益がもたらされる。この事業は、2003年に中村哲医師とピース・ジャパン・メディカル・サービス (PMS)によって始められた、クナール川流域に灌漑システムを築く「緑の大地計画」を更に発展させていくことを目指している。2023年迄に、PMSの活動により、放置されていた23,800ヘクタールもの乾燥地が再び緑の畑によみがえった。この恩恵を受けた人々は65万人以上に上る。

岡田隆駐アフガニスタン日本国特命全権大使は、「『緑の大地計画』による劇的な変化は、食料や水、生計のみならず、人々に希望ももたらしました。この成功は、アフガニスタンの人々の努力と強靭さの証です。日本はFAOと協力して、この中村哲医師の遺産である事業に取組み、地域社会が貴重な水資源を管理し、持続可能な農業を行えるよう支援します。日本は、アフガニスタンの人々自らが助け合い、生計を再建し、再び自立していけるように支援を続けます」と述べた。

リチャード・トレンチャードFAO アフガニスタン国事務所長は、「FAOは、アフガニスタンの多くの地域で農業振興、灌漑支援、食料安全保障強化、地域社会の生計向上を推進するため、引き続き日本政府から時宜を得たご支援を頂き感謝しています」と述べた。そして、「水は命の源、そして水は食料の源です。特に貧しく食料不安に苦しむ農村世帯にとって、灌漑へのアクセスはいっそう重要となっています。気候変動が農村に与える影響が深刻化する中で、日本の寛大な支援は、最も脆弱で社会からも取り残され、食料不安に悩まされる農家の農業生産性を大幅に向上させ、食料安全保障の強化とより強靭な生計をもたらし、脆弱な放牧地と地下水資源を保護するのに大変役立つでしょう。さらに、地域社会が自ら水管理の課題に取り組むことは、社会の結束を高めるだけでなく、地域社会のオーナーシップと事業成果の持続可能性を高めます」と語った。

食料安全保障向上に向けた灌漑インフラの活用

本事業は、PMS方式を採用し、同国の人々が自ら灌漑システムを適切に管理・利用できるよう支援する。PMS方式を通じて、本事業では、知識を活用しつつ地域社会が主体となって持続的な活動を行えるような取組みを推進することにより、伝統的な灌漑インフラの改善を図り、灌漑農業に生計を依存する下流地域に確実に水が供給されることを目指す。また、PMS方式灌漑事業ガイドラインに従い、取水堰、制御ゲート、横断排水工、排水渠、仕切り、用水路を跨ぐ構造物、沈砂池、調整ゲート、及び二次/三次用水路の修復など、きちんと機能する灌漑施設を持続的に維持することに焦点を当てる。

また、流域管理や雨水利用も本事業の重要な活動であり、適応性のある植物の植栽、貯水池や砂防ダムの建設、効果的な雨水利用のためのその他の対策など、洪水管理と集水域内における急激な雨水の流れを緩和することに注力する。これらの活動は、地域社会の代表との協議を通じて決定され、用水路の送水能力を最適化し、対象となる灌漑システム内での確実な水の供給を確保する。

PMSの専門家は、100人以上の現地の技術専門家に対してPMS方式の研修を行う。さらに、地域社会の110人の水利用者に対し、灌漑システムを効果的かつ持続的に管理できるよう、運用と保守に関する研修を行い、本事業の成果や効果を長期的に維持することを目指す。

FAOは、アフガニスタンの全34州で強靭性の強化に向けた支援を行っており、農業による生計向上と地域の生態系を保護・回復する取組みを強化している。こうした取組みには、栄養価の高い食料の生産、現金収入の増加、さらに農村市場と経済の活性化を通じ、この数十年で達成された農業分野での重要な進展を守り続けることなどが含まれる。

 

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