国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

ウクライナ及びロシア連邦の世界の農産物市場における位置づけと ウクライナでの戦争に伴うリスク (2022年3月25日更新)

(仮訳)FAO インフォメーションノート

05 July 2019, Krasne, Ukraine - Combine harvester at work in a wheat field near Krasne village.

©FAO/Anatolii Stepanov

2022/03/25

概要(エグゼクティブサマリー)

※本概要は仮訳であるため、正確には原文(https://www.fao.org/3/cb9236en/cb9236en.pdf)をご参照ください。 原文と相違がある場合には、原文が優先されます。

 

1.1 市場シェア

• ロシア連邦とウクライナは、世界の農産物の最も重要な生産国の一つである。両国はい ずれも農産物の純輸出国であり、食料や肥料の世界市場を牽引している。食料や肥料を 輸出できるのが一握りの国に集中しているため、これらの市場はショックや価格変動に 対しより脆弱な体質を有している。

• 2021 年の小麦、とうもろこし、なたね、ひまわり種子、ひまわり油の世界の輸出を見る と、ロシア連邦、ウクライナの両国、あるいはそのどちらかが輸出上位3か国に入って いる。さらにロシア連邦は、窒素質肥料輸出で世界第1位、加里質肥料輸出で世界 2 位 そしてりん酸質肥料輸出で世界第 3 位となっている。

1.2 貿易の概要

• 食料や肥料の大半を輸入に依存する数多くの国々は、ウクライナやロシアからの輸入に より自国の食料需要を満たしており、その多くが後発開発途上国(LDC: Least Developed Country)や低所得食料不足国(LIFDC: Low-Income Food-Deficit Country)である。また、 これらの国の多くは、今般の紛争前からすでに食料や肥料の国際価格の上昇の影響を受 け厳しい状況に置かれていた。

 

2リスク分析:紛争から生じるリスクの評価

2.1 貿易リスク

• ウクライナでは、紛争の激化により作物の収穫ができるのか、また輸出できるのかが危 ぶまれてきている。紛争によりすでに港は閉鎖され、油糧種子の圧搾作業も一時停止し、輸出許可が要求されるようになった品目もある。こうしたあらゆる状況により、今後数 か月の間に同国の穀物及び植物油の輸出が大きな打撃を受けることが予想される。さら に、ロシアに課された経済制裁によりロシアの農作物の取引が困難となることも予想さ れ、ロシアの輸出動向も大きな不確実性を伴っている。

2.2 価格リスク

• FAO が実施したシミュレーションにおいて、これら2か国の穀物及びひまわり種子の輸 出が突如急激に減少した場合に起こりうる影響を評価したところ、2022/23年の市場出荷 時期には、他の代替供給先からの輸出ではこれら2か国からの輸出不足分が部分的にし か補われないかもしれないと予測している。また生産コスト及び農業投入財コストの上 昇により、多くの代替輸出国の生産能力や輸送能力の強化は限定的となると考えられる。 その結果生じる世界的な供給不足が、すでに高騰している食料及び飼料の国際価格基準 をさらに8~22%押し上げることが懸念される。

• もしこの紛争により原油価格が高止まりを続け、2022/23年期以降もこれら2か国からの 輸出減少が長期化した場合は、たとえ生産物の販売価格の上昇に乗じて他の生産国が生 産を拡大したとしても、穀物やひまわり種子の国際市場では著しい供給不足が続き、国 際価格は基準値よりかなり高い水準で推移することが見込まれる。

2.3 物流リスク

• この紛争がウクライナの内陸部の輸送インフラや海港、貯蔵及び加工施設を破損・破壊 してしまうのではないかという懸念も生じている。これらのインフラが機能しなくなっ た場合、例えば鉄道輸送が海上輸送を代替したり、より小規模な加工施設が近代的な油 糧種子圧搾施設を代替できる能力は限られており、一層懸念すべき状況となっている。

• また黒海地域に停泊せざるを得ない船舶の保険料の引上げについても総じて危惧する声 が上がっている。保険料の引上げは、すでに上昇している海上輸送料をさらに押し上げ、 最終的に輸入者が支払う食料の国際取引価格に影響を与えることとなるからである。

2.4 生産リスク

• 2022/23年の冬作物の当初の生産見通しは、ウクライナもロシア連邦も良好との予測だっ たが、ウクライナでは、紛争により、農家が農地で耕作したり、収穫したり、作物を販 売したりすることができなくなる可能性や、基本的な公共サービスの寸断により農業関 連活動が影響を受ける可能性が出てきている。

• 現時点では、この紛争によって、冬作物の種がまかれたウクライナの農地のうち 20~ 30%が 2022/23 年期には収穫されず、これらの作物の収量が減少すると予測している。さらに、ウクライナの農家が来る春の作付期に作物の作付けができるかどうかについて 不確実性も高まっている。

• 紛争は、ウクライナが動物疾病をコントロールする能力にも影響を及ぼしうる。この紛 争により、同国内及び近隣諸国における動物疾病、特にアフリカ豚熱(ASF)が広がるリ スクが大幅に高まる可能性がある。

• ロシア連邦については、作物への目立った混乱は現場では生じてはいないものの、同国 に対し課された国際的な制裁により食料輸出にどのような影響が生じるか先行きが不透 明となっている。どのような輸出の減少をも農家の所得を引下げる可能性があり、その 結果将来の作付け判断にマイナスの影響を与えると考えられる。

• ロシア連邦に課せられた経済制裁は、同国がかなりの部分を輸入に依存している農業投 入財、特に農薬や種子の輸入を滞らせる可能性がある。それにより、作付量や収量が減 り、また品質が低下する可能性もあるため、ロシアの農業セクター、そして世界の食料 供給全体としても無視できないリスクにさらされる可能性がある。

2.5 人道上のリスク

• 現下の 紛争により、ウクライナにおける人道上のニーズが高まりを見せる中、この紛争 が激化する以前から同国東部で8年以上も続く紛争により、すでに避難を余儀なくされ たり支援を必要としている何百万もの人がより深刻な状況にさらされている。この紛争 で農業生産が確実に減少し、経済活動が制限され、物価が上昇することから、地域住民 の購買力は一層低下し、食料不安や栄養不良が進むと考えられる。

• ウクライナからの避難民を受け入れている近隣諸国でも人道上のニーズがかなり高まっ ている。

• 世界的には、もし今般の紛争によってウクライナやロシア連邦からの食料輸出が突然長 期間にわたり減少すると、食料の国際価格に対するさらなる上昇圧力となり、特に経済 的に脆弱な国に被害が及ぶであろう。FAO のシミュレーションでは、このシナリオ下で は、2022/23 年に栄養不良に陥る世界の人口はさらに 800 万人から 1,300 万人増加する可 能性があり、中でもアジア・太平洋地域での増加が最も著しく、次いでサブサハラ・ア フリカ地域、近東・北アフリカ地域が続くと予測している。紛争が長引くと、2022/23年 以後も影響は続くと思われる。

2.6 エネルギーリスク

• ロシア連邦は、世界のエネルギー市場の主要なプレイヤーである。農業は特に先進国に おいて極めてエネルギー集約型な産業であることから、この紛争に伴うエネルギー価格 の急騰による影響は免れない。

• 農業は、直接的には燃料やガス、電気を使用し、また間接的には肥料や殺虫剤、潤滑油 等のアグリケミカルを使用することで、大量のエネルギーを消費している。

• 紛争により肥料やその他のエネルギーを大量消費する製品の価格が上昇しており、総じ て農業投入財の価格は著しく値上がりすることが見込まれる。そして、投入財の価格上 昇は、生産コストの上昇を招き、ひいては食料価格の上昇をもたらすと考えられる。ま た、投入財の価格上昇により投入財の使用量は減少し、2022/23年期の収量や収穫を抑制 し、その結果今後数年にわたり世界の食料安全保障の状況を悪化させるリスクが生じる ことが予想される。

• エネルギー価格の上昇は、またバイオエネルギーの原料としての農産物(特にとうもろ こし、砂糖、油糧種子/植物油)の需要も高める。エネルギー市場の規模が食料市場の規 模より大きいことを踏まえると、食料価格はバイオエネルギー市場で求められる農産物 価格と同等程度まで引き上げられることが予想される。

2.7 為替レート、債務、及び成長のリスク

• ウクライナ通貨フリヴニャが、2022 年3月初旬、対米ドル史上最安値を記録したことか ら、ウクライナでは輸出競争力が増す一方で輸入は抑制される等、農業への影響が大き くなってきている。

• 現時点ではその影響の程度は定かではないが、紛争が同国の生産能力やインフラにもた らした被害からの回復や復興には、かなり多額の費用を要すると見込まれる。

• ロシア連邦に課された経済制裁はロシアルーブルの暴落ももたらした。ルーブル安はロ シアからの農産品輸出を一層後押しすることにはなるが、一方でロシアにおける投資や 生産性の向上についての見通しは明るくないと考えられる。

• 経済活動の低下やルーブルの下落は、中央アジア諸国で国内総生産(GDP)のかなりの シェアを占める本国送金フローの低下をもたらし、これらの国々にも甚大な影響を与え ることが予想される。

• 現在の紛争は世界的な波及効果があるかもしれない。現段階での世界経済への影響は未 だ不確実であり、様々な要因にもよるが、COVID-19 のパンデミックによる不況からまだ 立ち直ろうとしている今この時に、最も脆弱な国と人々は、経済成長の鈍化と更なるイ ンフレにより大きな打撃を受けると予想される。

• 農業は多くの開発途上国にとって経済の屋台骨であり、これらの国の多くが米ドル建て の債務に依存している。そのため、対米ドル自国通貨安が続くと農業食料セクターを含 め自国経済に著しいマイナス影響をもたらすことが予想される。さらに、世界のいくつ かの地域で GDP 成長率が鈍化すれば、農産物や食料への国際的な需要に悪影響を及ぼし 世界の食料安全保障をも脅かすと予想される。また、このような GDP 成長率鈍化の中で、もし特に世界の軍事費が増加するようなことになれば、開発に向かう資金が減少するこ とが予想される。

 

3 政策提言

• 紛争によってウクライナ及びロシア連邦の食料・農業セクターが被害を被らないよう、 また被害が生じた場合はそれを限定的なものにとどめるよう、食料や肥料の貿易につい ては、国内需要や世界の需要を満たしつつ国際的に開かれたものとすべくあらゆる努力 が払われなければならない。また、既存の作物や家畜、食品加工施設及びあらゆる物流 網を保護する等、サプライチェーンが滞りなく機能し続けるよう留意しなければならな い。

• ウクライナやロシア連邦からの食料輸入に依存する国は、紛争によって生じるショック を吸収しレジリエントであり続けるため、自国の食料需要を満たすために他の代替輸出 国を探す必要があるだろう。また、既存の食料備蓄を活用し、自国の国内生産拠点を拡 大して、食料の供給源を多様化すべきである。

• この紛争が脆弱な人々の食料安全保障にもたらす影響に鑑み、紛争によって生じる苦し みを和らげ速やかな回復を促すためにも、適時に状況をモニタリングし、的を絞った社 会保護の手を差し伸べることが必要である。ウクライナ政府の統合社会情報システム (Unified Social Information System)がいまだカバーしきれていない人々を同システムに 登録し対象を広げることで、国内避難民や難民、紛争による被害を受けた人々へ同国の 社会保護の手が行き渡るようにすべきである。

• 難民の受入国は、法的な要件の免除や、取扱い件数の増加に対処するため必要に応じ自 国の社会保障制度の対象を拡大する等、既存の社会保障制度や雇用機会へのアクセスを 容易にするべきである。

• 紛争によって生じる混乱の影響を受ける国は、自国の対策が国際市場に及ぼしうるマイ ナスの影響を、長期的な視点も含め慎重に比較検討しなければならない。特に、輸出規 制については、市場価格の変動を増長し国際市場の緩衝能力を制約する等中期的にマイ ナスの影響をもたらすことから、回避しなければならない。

• アフリカ豚熱(ASF)やその他の動物疾病の蔓延は、早期発見、タイムリーな報告、迅速 な疾病の封じ込め、そして監視スキームや対象を絞った動物のサンプリング等ウイルス 検出のための対策を実施し、全ての地域におけるバイオセキュリティの改善と適正な動 物の飼育を通じて封じ込められなければならない。

• 国際市場が適切に機能し続け、食料・農産品が円滑に取引されるためには、農産物市場 の動向が不確実な中で市場の混乱を最小限に抑える必要があり、その際重要な役割を果 たす市場の透明性の確保や政策対話が強化されなければならない。