国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

チュニジアの地域独特の農業システム、世界農業遺産に認定

2020/06/15

ローマ-チュニジアのガル・エル・メルハの潟湖にある伝統的なラムリ農業システムとジェバ・エル・オリアの空中庭園は、国連食糧農業機関(FAO)が認定する世界農業遺産(GIAHS)として認められました。チュニジアの農業システムが世界農業遺産の認定を得たのは、2011年に認定されたガフサのオアシスシステムに続き2回目です。

両地域は、栽培作物と在来動植物の生態系との深い結びつきを反映し、同時に伝統的な知識と生物多様性の保全を促進しています。 世界農業遺産としての認定は、地域コミュニティが将来世代のために地域の遺産を大切に守り、保全する励みとなります。

ガル・エル・メルハのラムリ農法

「砂の上」を意味するラムリ(Ramli)は、砂地で作物を育てる農業慣行です。 チュニジアだけでなく世界的にも珍しいこの庭園は、17世紀にアンダルシアのディアスポラによって、耕作可能な土地と淡水の不足に対処するために形成されました。

この独特な農法は、海面に浮いて溜まっている雨水が潮の動きによって一年を通して植物の根に供給される、受動的灌漑システムに基づいています。

何世紀にもわたって受け継がれてきた伝統的知識により、農家は砂と有機物の適量供給を通して潟湖区画を維持できるため、作物が適切な高さに伸び、根は淡水で灌漑され、海水の影響を受けることなく育ちます。

潟湖の果樹と低木の生け垣は耕作地を風や海のしぶきから守り、蒸発を遅らせ、砂地を固めます。このような多面的なシステムにより、干ばつの時期でさえも、人工的な給水なしで、年間を通じて作物を栽培することが可能となります。

今日、漁業と農業はこの地域の主要な生計手段です。 ガル・エル・メルハの農場は小さく(81%は5ヘクタール未満)、主な生産物には「砂の上」で栽培されたジャガイモ、豆、タマネギが含まれています。

ラムリ農業システムの詳細については、こちらをご覧ください。


ジェバ・エル・オリアの空中庭園

ゴーラ山(Mount el Gorrâa)の高台に位置するジェバ・エル・オリアの庭園は、独特のアグロフォレストリーシステムを形成しています。農家は、自然の地層から派生した段丘で農業を統合するか、あるいは乾燥した石でそれらを築くことにより、この標高600メートルの山岳景観を有利に形作ってきました。

効率的な灌漑システムによって補強された空中庭園は、年間を通じて地域社会の食料ニーズを満たすことのできる革新的でレジリエンスあるアグロフォレストリーの一例です。標高の高い場所での森林保全と、庭園内の樹木の層に生育する多数の種の存在により、ジェバ・エル・オリアは特有の微気候の恩恵を受けています。

アグロフォレストリーとアグロエコロジーを組み合わせた農業慣行に基づくイチジクの果樹栽培は、粗放型畜産によって支えられている多様でレジリエンスのある複合システムの主力となっています。 イチジクの他に、トマトやコショウなどのナス科作物、カボチャ、ソラマメ、タマネギ、豆、ジャガイモなど、野菜、マメ類、果実が数多く栽培されています。

家畜飼育もこの地域の生物多様性の大きな部分を占めています。特に、険しい地形に適応した在来種の羊「ブラックティバー」や、その頑強さで知られる品種の牛「ブラウンアトラス」が育てられています。

これらの庭園は、近隣の森や野生の動植物種の恩恵を受け、自然界の花粉媒介者は生物多様性を支えています。 栽培種や野生種を管理する技術は、地域の独創的な知識の基本となっています。 また、生産物の品質は高く評価されています。ジェバのAOC(原産地統制呼称制度)のラベルの付いたイチジク、生鮮果実、ドライフルーツ、加工食品(ジャム)はすべて、国内外で高い人気があり、重要な収入源となっています。

ジェバ・エル・オリアの庭園の詳細については、こちらをご覧ください。


2019年3月にチュニジア政府によって正式に提出された世界農業遺産への申請は、ガル・エル・メルハ地域については国連開発計画(UNDP)、また、ジェバ・エル・オリア地域についてはFAOチュニジア事務所のプログラムからの技術的支援を受け、国内GIAHSフォーカルポイントとGIAHS事務局との調整の下で進められました。

GIAHSプログラムについて

チュニジアの2地域の認定により、世界農業遺産の総数は22か国の61地域となりました。 このFAOの画期的なプログラムは、農村地域が食料安全保障、生計維持、レジリエンスある生態系、豊かな生物多様性を育むために何世代にもわたって築き上げてきた独特の手法によって特徴付けられ、そのすべてが注目に値する景観の形成に貢献しています。

原文(英語)は以下から
Tunisia’s unique farming systems win recognition as part of the global agricultural heritage

世界農業遺産(GIAHS)(日本語)