国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

FAOの世界農業遺産:夫婦が守り続けた雑穀を継承

©Tokushima-Mt. Tsurugi GIAHS Promotion Association

日本の「にし阿波の急傾斜地農業システム」は、2018年に国際連合食糧農業機関(FAO)によって世界農業遺産(Globally Important Agricultural Heritage System, GIAHS)に認定された。この特別な農地では、健康的な食生活や生物多様性にとって重要な、シコクビエなどの在来作物が栽培されている。

©Tokushima-Mt. Tsurugi GIAHS Promotion Association

2023/12/15
徳島県の山間部では、400年以上もの間、農家が在来品種の雑穀、野菜、そのほかの作物を栽培してきた。雑穀は非常に栄養価の高い作物だが、近年その栽培が途絶えそうになった。そのような中、にし阿波のある農家の愛情が、在来品種のシコクビエを絶滅の危機から救ったのである。

戦後の日本では、豊かになるにつれて明らかに米が好まれるようになり、雑穀は貧しさの象徴となった。その結果、人々は次第に雑穀を栽培しなくなった。この地域のある農家は、「小学校でシコクビエを食べていると、それはお米が足りないことを意味したので、恥ずかしく感じた」と語った。

しかし、2018年、「にし阿波の傾斜地農耕システム」が国際連合食糧農業機関(FAO)によって世界農業遺産(GIAHS)に認定さると、人々はすぐに、在来品種の雑穀が重要な遺伝的・文化的資源であり、また気候変動への適応性の高い作物であることに気づいた。

にし阿波の傾斜地農耕システムが他の農地と大きく異なるのは、通常は農業に適さないとされる非常に急な斜面(最大斜度40度)を段々畑にすることなく、革新的な方法でソバ、イモ類、様々な種類の雑穀などの在来品種の作物を栽培しているからである。農家は、傾斜地の周囲に主にカヤの採草地を設け、この草で土壌に覆ったり、畑にすき込んだりすることにより、土壌の流出を防いでいるのである。

にし阿波が世界農業遺産に認定されたことにより雑穀が注目されるようになると、この重要な作物の在来品種を普及するため、祖谷雑穀生産組合が設立された。しかし、2018年には、この地域で雑穀を栽培する農家を見つけることは難しくなっていた。

雑穀のような作物は、人の手が入らなければ繁殖できないため、これは非常に不運な状況だった。シコクビエ、ヒエ、アワ、キビ、ソルガムなどの在来品種の種子は、4年以上保存すると発芽率が大幅に低下してしまう。つまり、在来品種を受け継ぐためには、代々栽培を続ける必要がある。

そのような中、東祖谷の一組の年配の夫婦だけが、自家用にシコクビエの栽培を続けていた。妻はシコクビエの懐かしい味が大好きで、また夫は妻への愛情からシコクビエを作り続けた。しかし2018年には、この夫婦でさえ、自力でこの雑穀を栽培し続けることが難しくなっていた。

そこで祖谷雑穀生産組合は夫婦のシコクビエの種を受け継ぎ、にし阿波の傾斜地農耕システムで、今もこの種を栽培し続けている。また、同組合は、徳島大学の文化人類学者と共同で、クッキーやパンケーキ、お菓子などの新しい雑穀商品の開発にも取り組んでいる。

2021年、6種類の祖谷の雑穀が、その保全を目的とし、スローフード・インターナショナルの「味の箱舟」に登録された。日本では、雑穀は主食ではないが、人々はその風味、健康への効果、そして地元産であるという点で雑穀を高く評価している。一度は忘れ去られた雑穀の品種を見直すことで、地域の人々にとって新たな収入源にもなりつつある。

雑穀の栄養面や健康面での利点、そして悪化し変化する気候条件下でも雑穀が栽培に適するという点について認識を高めることを目的として、国連は2023年を「国際雑穀年」と定めた。より多くの農家と消費者が、この過小評価されている作物がもつ固有の味と、卓越した特徴を見出すことが期待されている。

シコクビエは、日本の畑に再び撒かれた。この重要な作物がこの地域で受け継がれ、再び息づいているのは、この愛の物語のおかげなのである。

FAOは毎年、優れた農業生物多様性、伝統的知識、貴重な文化をもつ世界農業遺産を認定しています。世界農業遺産の素晴らしい景観は、農家、牧畜民、漁師、森林に住む人々によって、持続可能な形で管理され、彼らの暮らしを支え、食料安全保障につながっています。世界農業遺産の最新の認定地と認定地の一覧はこちらの英語のサイトからご覧いただけます


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